いらないひとゲェム

1/5

34人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

いらないひとゲェム

 気がついた時、私はその空間で、椅子に縛り付けられて座っていた。 ――な、何これ!?何これ!?  記憶は昨日、水泳部の活動が終わって友達と別れた、そこで止まっている。いつもの通学路を、駅に向かって真っ直ぐ歩いていたはずだ。が、駅に着いた記憶がない。友達と別れてすぐのところで、ぷっつりと記憶が途絶えている。  目の前にはテーブル。  壁も天井も照明も白い部屋に、私以外にも数人女性がいるというのが唯一の救いだろうか。どうやら全員私と同じように椅子に縛り付けられた状態で、この部屋に閉じ込められているらしい。丸いテーブルをぐるりと囲む形で、私を含めて合計五人。テーブルは白いが、どうやら座らされている椅子の色はみんな異なるようだ。私が体をひねってみれば、どうやら私の座っている椅子には青い色が塗られているらしい。  誘拐、監禁。そんな言葉が浮かんでは消えていく。 ――服も、制服のまんまだし……これ、ほんとに拉致されてきたってこと!?私達全員が!?  体が恐怖から震えだした、まさにその時。照明の横に取り付けられたスピーカーから、無機質な声が響き渡った。 『皆様、このたびは“いらないひとゲェム”にご参加いただきまして、誠にありがとうございマス』  機械で合成しているのか、はたまた生きた人の声を加工しているのか。ノイズまじりに、実に気味の悪い声だ。 『皆様がここから脱出するためには、ゲェムに勝利して頂く必要がございマス。お一人様につき三回勝利することで、この屋敷から脱出することが可能です』 「ちょ、ちょっと待ってよ!聞いてないし、参加するなんて言ってないわよ!人の意見も聞かずに無理矢理連れてくるなんて最低じゃないの!」  スピーカーの音声を遮るようにして喚いたのは、黄色い椅子に座っている中年の女性だ。もじゃもじゃのパーマ頭に、派手な化粧に、派手な服。いかにもお金持ちのマダムといった風情の女性である。キンキンと甲高い声で、ひたすらスピーカーを睨んで喚き続ける。 「あたしは買い物に行くところだったの!こんなことしてる場合じゃないのよ、今日こそずっと狙ってた限定商品が手に入るはずだったってのに!どうしてくれるのよ、責任取ってくれるわけ!?」  この状況において、まだ買い物のことを気にしているというのは度胸があるのか、あるいは頭がからっぽなだけか一体どっちだろう。私はついつい心の中で呟いた。――ミステリーなら、犯人の言葉を遮って叫ぶような人間は真っ先に殺されるんだけど、と。  お約束ではないか。付き合っていられない!私は部屋に篭る!と宣言した人間が翌朝死体となって発見される、なんてパターンも。 『……では、先にそちらからご説明いたしまショウ。我々が、何故、皆様を“強制的に”ゲェムにご招待したのカヲ』  幸い、誘拐犯は特に気を悪くした様子もなく、淡々と口にした。 『皆様もご存知の通り、この国は数十年前から爆発的に人口が増えまシタ。元々一億人程度が住んでいるばかりだった小さな島国に、今や十億人もの人々が密集して住んでいる状況デス。慢性的な食糧不足、土地不足に陥っていることはご存知のことかと思いマス』 「それが何よ」 『そこで、我々は人口を減らすため、苦肉の策を講じたのデス。十億人の中から、そのうち一億人ほどの“いらない人間”を減らすことから始めるべきダト。……人に迷惑をかける人間、無能な人間、目障りな人間、役に立たない人間、犯罪を起こしかねない人間。そういう人間を選び、処刑することで人口を減らし、無用な犯罪をも防ごうという狙いなのデス。心優しく、優秀な人間だけを残していくことが、この国の未来を救うことになりマス』
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加