雨はまだ、やまないらしい

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雨はまだ、やまないらしい

 雨はまだ、やまないらしい。 「梅雨って嫌だよね。毎日雨降ってる気がする」 「毎日じゃないよ。昨日は曇りだった」 「はあ、そうやって正論ばっかり言うの嫌い」 「俺の好きなところなんてないくせに。お前は本当に可愛げがない」 「お前なんて呼び方するのも嫌い」  学校帰りのマクドナルド。部活が早い水曜日、決まってシェイクを飲みに来る。今日は傘を忘れたダイチと一本の傘に入って来た。今日だけは雨で良かった気がした。でも、二人で来るのは多分これが最後。  雨音に耳をすませながら私はダイチが話すまで待つ。 「雨ってさ。ずっと一方的に落ちてくるばっかりでウザい。こう、ぐわっと下から押し上げて空に返したくなるよね」  私は雨を押し上げるような動作を大袈裟にしてダイチの笑いを誘う。 「地球規模で言ったら水蒸気になって空に帰っていってるんだよ。ソラが押し返さなくてもな」 「じゃあずっと空にいたらいいのに」 「重いから落ちてくるんだよ」  雨は重いから落ちてくる。一方的に上から下へ。一方的なのは私の想いと一緒かな。長年私が受け取り続けたダイチの魅力が好きって思いになって降り注ぐ。一方的に。身勝手に。 「で、私に話があるんでしょ」  私はなかなか切り出さないダイチに呆れながら話を促す。本当は聞きたくなんかない。でも聞いておかないといけない。ダイチのために。ダイチの幸せのために知らない振りを続けるわけにいかない。 「付き合うことになった」  ダイチは私の目を見ずにくぐもった声で言った。手に持ったシェイクばかり見ている。私はそんなところにいないのに。ちゃんと私のことを見て欲しいのに。そんなところも嫌い。 「後輩のウミちゃん。先週告白されて、それから」 「ふーん」  知ってた。今日そのことを伝えられることも知ってた。私は私のことを見ていないダイチの横顔をじっと見つめる。 「可愛い?」 「……うん」  照れてるダイチを見て私も照れ臭くなってしまう。私のことは? なんて聞いたらちょっとくらい困ってくれるのかな? でも流石に迷惑だよね。 「そっか。じゃあ、これからはあんまり二人きりで会えなくなるね。可愛いウミちゃんに誤解されちゃう」 「うん。ごめん。友達なのに」 「仕方ないよ。友達だから……ね」  友達だから、もう二人きりではいられない。友達だから、彼女より優先されない。仕方ない。  ダイチのスマホが着信を知らせる。 「あ、駅で待っててくれてるみたい。ごめん。行くね」 「うん。いってらっしゃい。私は飲み終わってから帰るから傘持っていっていいよ」 「ソラが濡れちゃうじゃん」 「一生懸命降ってきてる雨も、たまには受け止めてあげないと可哀想かなって思って。ダイチはちゃんと傘差して雨に当たらないようにして」 「そっか。ありがとう。じゃあ、また明日学校で」 「バイバイ」  ダイチはそう言って駆け出した。私の傘を傘立てに残したまま。雨の中をびしょ濡れになりながら走っていった。本当……そういうところが大嫌い。  雨はまだ、やまないらしい。
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