1516人が本棚に入れています
本棚に追加
制作物の進行スケジュールを確認するためにカレンダーをチェックした時、思わずモニターを睨んだ。
1時間後に、見覚えのない会議が入っていたからだった。
呼ばれたメンバーは新卒の数人と自分、それに総務部の人間で、詳細には「社内イベント打ち合わせ」と記されている。
イベントという文字を目で追ってようやく、湯川は朝方、部長から声をかけられたことを思い出した。
会社では、年に2回、行事が催されている。
ひとつは夏に実施するレクリエーション大会。もうひとつは年末の忘年会である。
実行委員は1年ごとに一般社員で回していて、今年は昨年入社した新卒の何名かが担当するらしいのだが、要はそのとりまとめを湯川にしてほしいとのことだった。
湯川君、頼りになるから————
部長から肩を叩かれた時、その手を振り払ってやりたい衝動に駆られた。
いてくれて助かる。
湯川君がいなきゃ困る。
こんなの、昔から言われてきた台詞だ。
頼られるのは嫌じゃなかったし、役に立てるのは嬉しかった。
いつもならそう思えるのに、ささくれ立った今の湯川には、それらがただ虚しく響くのだった。
不特定多数にとって便利な存在にはなれても、誰かひとりの、かけがえのない存在にはなれない———
「湯川さんといると幸せです、なんか」
冬のキャンプ場で大智からそう言われた時、湯川は彼にとっての、かけがえのない存在になりたいと思った。
そこらを浮遊する空気のような幸福ではなく、ずっしりとした重みのある、本物のそれを与えてやりたかった。
しかし、付き合ってみても大智はやはり、振り子のようだった。
ふらりふらりと揺れて、やがて見切れて湯川の前からいなくなったのだった。
————結局、自分にはなにもない。
自分はなにももってはいない。
ひとりだと気づかされ、虚しさが落とされると、すぐさま黒い感情で塗り潰した。
虚無という白い箱を、自分のなかにとどめておくのが怖かったのだ。
——湯川は席を立ち、休憩スペースへと向かった。
長い廊下を歩くだけでも、少し気分が変わる。
それに、もしかしたら。
最初のコメントを投稿しよう!