まっしろ

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制作物の進行スケジュールを確認するためにカレンダーをチェックした時、思わずモニターを睨んだ。 1時間後に、見覚えのない会議が入っていたからだった。 呼ばれたメンバーは新卒の数人と自分、それに総務部の人間で、詳細には「社内イベント打ち合わせ」と記されている。 イベントという文字を目で追ってようやく、湯川は朝方、部長から声をかけられたことを思い出した。 会社では、年に2回、行事が催されている。 ひとつは夏に実施するレクリエーション大会。もうひとつは年末の忘年会である。 実行委員は1年ごとに一般社員で回していて、今年は昨年入社した新卒の何名かが担当するらしいのだが、要はそのとりまとめを湯川にしてほしいとのことだった。 湯川君、頼りになるから———— 部長から肩を叩かれた時、その手を振り払ってやりたい衝動に駆られた。 いてくれて助かる。 湯川君がいなきゃ困る。 こんなの、昔から言われてきた台詞だ。 頼られるのは嫌じゃなかったし、役に立てるのは嬉しかった。 いつもならそう思えるのに、ささくれ立った今の湯川には、それらがただ虚しく響くのだった。 不特定多数にとって便利な存在にはなれても、誰かひとりの、かけがえのない存在にはなれない——— 「湯川さんといると幸せです、なんか」 冬のキャンプ場で大智からそう言われた時、湯川は彼にとっての、かけがえのない存在になりたいと思った。 そこらを浮遊する空気のような幸福ではなく、ずっしりとした重みのある、本物のそれを与えてやりたかった。 しかし、付き合ってみても大智はやはり、振り子のようだった。 ふらりふらりと揺れて、やがて見切れて湯川の前からいなくなったのだった。 ————結局、自分にはなにもない。 自分はなにももってはいない。 ひとりだと気づかされ、虚しさが落とされると、すぐさま黒い感情で塗り潰した。 虚無という白い箱を、自分のなかにとどめておくのが怖かったのだ。 ——湯川は席を立ち、休憩スペースへと向かった。 長い廊下を歩くだけでも、少し気分が変わる。 それに、もしかしたら。
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