SCP-8900-EX「青い、青い空」

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SCP-8900-EX「青い、青い空」

【最初に】 突然ですが、皆さんは何色が好きですか? 私は寒色系が好きです。 赤、青、黄、緑、黒、白、紫、ピンクなど様々な色がありますが、その色達が『世界的な異常』だとしたら……どう思いますか? 今回は、「色」に纏わる、財団が収容に失敗したオブジェクトの1つをご紹介しましょう。 【概要〜オブジェクトクラス〜】 オブジェクトクラスはExplained(エクスプレインド)。 このクラスは、副次的なもので、 「その性質が今現在の主流科学で説明できるほどに完全に解明された・虚偽や錯誤によるものだと判明した・最早収容不可能なほどに公に流布され、広まってしまった」 という条件に該当するSCPがSCPナンバーの後に「-EX」と付けられる事で認定されます。 はじめに言ってしまうと、このオブジェクトは財団の歴史上最初にして唯一とも言える、財団の敗北宣言です。 【概要〜異常な色彩〜】 SCP-8900-EXは、ざっくり言うと視覚的な影響を恒常かつ永続的に与える現象系のSCPオブジェクトであり、その影響は全人類に及んでいます。 その影響範囲及び形態により事実上収容不可能と判断されており、そのことからKeterへと分類。 この8900-EXはある撮影技術の発明時の副産物によって生まれたもので、このオブジェクトが与えている視覚的影響は撮影が可能です。 最初こそ影響は写真乾板などの一部媒体にのみ表れていたのですが……次第に人類へと侵蝕し始め、やがてそれが当たり前の事になってしまいます。 このオブジェクトが急速に拡散を始めた時期は1935年前後。とある株式会社が発明したカラー写真技術が原因であるとされています。 このオブジェクトの正体は、可視スペクトルに永続的な変調をもたらす、つまり眼球に届いて脳が認識する光の波長を変え、目に映る色を全く別のものに変えてしまう現象系のオブジェクトです。 生物は、物体にぶつかって反射してきた光を目で受け取り、それによって色を認識しています。 このオブジェクトの影響を受けた物体は、自身にぶつかり反射する光の波長が不可逆に変わってしまう……つまり、その物体に対して認識される色が変わってしまうのです。 起源は不明ですが、1800年代と比較的新しく、影響は写真乾板のみに留まっていました。 そして当時は、我々が現在知るものとは全く別の色が世界に存在していました。 でですが、最初のカラーフィルムを開発したコダック社によって、カラー写真技術が生まれると同時に、本来あった「美しい」色彩は失われ、変調による「下品な」色彩に塗りつぶされてしまいました。 財団は収容しようと試みたのですが、全てがもう手遅れ。 そしてこの影響は、影響を受けた何かによる接触で広がります。 「感染」と形容されるこの下品な色彩の流布は止められず、接触禁止命令や「元の色彩」を与えなおす試みも失敗に終わりました。 そして当時の財団は最終手段―『アンニュイ・プロトコル』と呼ばれる最高クラスの記憶処理の実施に踏み切ります。 世界中に微細な記憶喪失を引き起こさせる化学物質を散布し、「世界が元の色彩から変化した」という認識を「世界は元からこの色彩だった」というものへ書き換えたのです。 何も知らぬ人々は突然の記憶操作に混乱したが、直ぐに順応しました。 「元々世界には色彩が溢れ、空は元からこのような色だったのだ」と。 その後に残ったのは、 下品な緑に包まれた山々 可笑しい色を見せ続ける海 空色で構成された空。 何も知らず「世界は元々そうだったのだ」と財団に思い込まされているということも知らない無辜の人々。 そして、何も出来なかったと悔み続ける財団のみ。 【概要〜O5の敗北宣言〜】 O5の権限でのみ見られる敗北宣言があります 『諸君、我々は失敗した。 SCP-8900の影響はあまりにも広く拡散し、ありふれたものになってしまった。空の自然な青は下品で不自然な色合いに変わり、木々の緑は等しく汚された。SCP-8900は全ての可視スペクトルに荒廃をもたらし、我々は覆い尽くされた。 正反対の影響を及ぼす「感染症」を作り出すという我々の試みは失敗した。我々は被験体に対して自然な色彩を復元させることに成功したが、この処置は被験体を無音にしてしまうようだ。 その上、今しがた使者がオフィスに到着し、我々のささやかな試みが収容違反を起こしたことを伝えてくれた。未来のエージェントはその性質から、これをSCPオブジェクトとして扱わなくてはならないかもしれないな。 我々にはたった一つの選択肢が残されたのだ、諸君。私は財団の最終フェイルセーフ手段、アンニュイ・プロトコルを実行する。 このメッセージが、受領を許可された君達に届いたことが確認され次第、世界中の財団が総力を挙げ、微細な記憶喪失を引き起こす化合物ENUI-5を大量散布する。 世界中のこのような恐怖を味わうべきでない男女が、立ち止まり、困惑し、自らの生活に戻るだろう、この現象が常に存在していたと確信し、何を失ったかを決して知らないまま。 ただ一つ、SCP-8900の影響を受けていない写真のみが真実を伝えていくことだろう。 私は残念でならない、諸君。本当に残念だよ。 これはやり遂げられねばならない。 ― O5-8 確保。収容。保護。』 【最後に】 このオブジェクトのディスカッションページでは、「元の世界の色」について議論が続いています。 このオブジェクトの世界は、 1.「世界は元々白黒で、SCP-8900によって色彩という概念が生まれた」 2.「世界は元々白黒だが、色彩の概念自体はあり、SCP-8900によって現在の我々が知る色になった」 3.「世界は元々我々の知るものとは別の色で満ちていたが、SCP-8900によって現在の我々が知る色になった。これに伴い元々の色は現在の我々では認識できなくなり、モノクロにしか見えない」 のいずれかに分けられますが、それが議論の種です。 要するに、「元の世界の色は白黒だったのか? 我々に認識できない別の色だったのか?」というのが論点。 作者であるtunedtoadeadchannel氏の構想は二番目です。 余談ですが、日本語訳SCPwikiにおいて、このSCPの翻訳版のタイトルの投票が行われたことがあります。 その際、「空色の空」「青い、青い空」等の題案の中に「ブライト博士」がしっかり混ざっていたそうです。ブライト博士はここにもいた。 次ページでは4章で紹介したオブジェクトのURLなどを記載します。 5章では……そうですね、ジョークSCPを紹介します。 暑さも恐怖も笑いで吹き飛ばしましょう。
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