そして…グリーンの雨

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 直後……ザー! と、快晴なのに雨が降り始めた。  玄関の三所と、裏の三所に設置された消毒システムのためで、細長いポールが屋根より高い位置まで伸び、そこから家屋と敷地全体にグリーンの雨を降らせる。 「転送直後は念のため、消毒液が雨のように降る……。三日三晩……の通称『やまない雨』だ……。これで、ようやくこのG地区の、住人の転送も完全に完了したな……。確か……台所の隅に、傘が1本あったはずだが……」  台所へ向かった田島は、1本だけあるホコリをかぶった傘を見付けた。 「だけど……もう、かなり使ってないようだな……」  田島が開こうとすると、やはり中の骨が固まっている感じで、ギジギジ……といって開かない。  何回か傘全体をマッサージするように(さわ)ってから、ゆっくり開くと、なんとか開いた。 「よーし、行けそうだ……」  田島は、タブレットなどをカバンに戻した時、何か忘れている事があるような……ん? と室内を見回した。  そこには、犬や猫の姿も無かった。 「あっそうか……佐竹さんの奥さんか……。良かった……」  田島は、古いテレビの上に置いてある、昭子夫人の写真を取るとバッグの中に入れた。 「さー、これでいい。一度、本部に戻って食事するか」  傘を差すと、グリーンの雨の飛沫(しぶき)が舞う中、佐竹老人が長年、住んでいた住居を後にした。  ――終――
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