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対向車などを確認しながら、田島は実に快適だった。
いま向かっているのは、車で三十分のところに在る『港エリヤのG地区』なのだが……
「あの爺さん、今日はどうかな……?」
その人物は、いわば今回の都市開発計画の 推進において「厄介者」 の一人だった。
あっと言う間に街並みを過ぎ、田舎のような光景に入って間もなく、田島が乗った公用車は、とある『入り口』に着いた。
梅雨の休息のような静けさ……とも言えそうな快晴の空を、チラッと見た彼は、その地域に入っていった。
とはいっても、巨大なフェンスがある訳ではなく、ただ、うす汚れた古い人家が並ぶ普通の町だ。
が――その古い人家のほとんどは、空家だった。
長い坂を下り切った田島は、一つ溜め息をつくと来た道を振り返った。
夏の位置に近付きつつある太陽が作りだす田島の影が、無人の舗装道路にアート風に伸びている。
彼は、無意識に額の汗を手で拭きそうになり、すぐポケットから
ハンカチを取り出して拭いた。
そして、ハッとした。
「これくらい歩いただけで、ハーハー言って汗をかくなんて……やっぱり運動不足なのかな……」
バッグからペットボトルの飲料水を取り出して、一口飲んだ。
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