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1年以上前、バスの廃止にともない無用となったバス停――それより少し
行ったT字路の手前の路地に入った。
古びたボロ屋根の平屋住宅の並び――最奥の住居の窓に、裸電球の明かりが見える。
その表札の文字は、判読不可能なほど黒くなっている。
田島は、ガタガタと引っかかる年季の入った引き戸を開けながら、
「またカギを掛けてない……。いくら独身男の1人暮らしでもな……」
すると奥から、モノラルなニュース音声が、聞こえてきた。
『令和天皇皇后両陛下は、本日、待望とされていた月面基地ご訪問へ出発されました。両陛下とも体調は良好で……』
「佐竹さーん、こんにちはー。いらっしゃいますよねー?」
と言いいながら田島は、ズカズカと上がりこんだ。
シミだらけの襖戸の向こにある六帖間で、一人の老人がテレビを見ながら、食事中のようだった。
が、匂いは、ほとんどしないから、多分、数日前に配給された物か……? と田島は思いながら、バッグをシミだらけの板の間に下ろした。
「あー、やっぱり、いらっしゃった……。来て良かった。佐竹さん、お食事中のようですが……。ちゃんとしたモノをですね……食べてほしいんですよね……。今の暮らしだと……なかなか不自由だから……そうはいかないでしょう……?」
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