そして…グリーンの雨

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 ここから決まって沈黙の時間となる。  通い始めた頃は、半時間ほども佐竹老人の背中とテレビ画面を交互に 見ていたような気がする。  ニュース番組が切り替わるタイミングで、振り向いてくれるように なったので、最近の田島は期待感を持っていた。 「わしは、あんたになんか、頼っておらん……」  それだけ言った老人は、またテレビの方を向くと、湯飲みを手にした。  いつ風呂に入ったか分からない、ボサボサの白髪(しらが)頭を見詰めながら田島は溜め息をつき、 「そうは言ってもですね……街まで買い物に行くのも大変でしょう……」 「……」 「去年からバスも廃止になりましたし……。お隣の大石さんご夫妻も、引っ越されましたからね……」 「……」  隣家に住んでいた大石夫婦は、佐竹老人と同い年くらいだったが、実に面倒見が良く、独り身の佐竹老人のために、買い物や家事の一部を手伝ってくれていたのだ。  しかし、その大石夫妻も、一ヶ月前に移住してしまったのだった。  いま思えば、その時がタイミングだったのだ。  田島は、佐竹老人がこれほど頑固者だとは思ってなかった。  さらに田島には、佐竹老人が、これほどまでに移住を拒む理由が分からなかった。  もう間もなく、この『G地区』での居住は禁止される。  それは、この地区が誕生してから、既に100年以上の歳月を経過した からで、高齢化時代の町としてふさわしくない――という判断を政府が 下したからだった。  ちなみに、この地区が無人になった後は、改めて整地しなおし、緑地公園にするのが政府の方針だった。
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