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その時、佐竹老人はポツリと……
「街並みを精巧に作り上げたとしても、所詮は虚構い
物なのじゃ……。わしはこの家、この場所が好きなんじゃよ……」
うんざりするほど聞かされた言葉だった。
それに対して、田島の口から出る言葉も、これまた同じになるため、彼は再び溜め息をしてから、
「ですからね、佐竹さん」
「……と言いつづけてきたが……。アンタも、今回で10回目。そろそろ、その胸に隠し持ったオモチャに、手がかかりそうになったりしてな……」
「……?……」
田島は、目を白黒させ、
(この人は、何を考えてるんだろう……?)
と思った。
実のところ、田島が胸ポケットに持っているのは、車を運転する時に使うカードキーだけだったのだから。
佐竹老人は、苦笑しながら溜め息をつき、
「分かったよ……。アンタの申し出を受け入れるよ……」
田島はホッとして、
「佐竹さん……。ありがとう……ございます」
目頭が少し熱くなるのを覚えた。すると佐竹老人は、
「ただし、一つだけ頼みがあるんじゃが……」
「はい、どのような……?」
「このテレビの上に置いてあるのは、数年前に亡くなった妻の昭子の写真なんじゃが……。これの元気な頃の姿を、ここで見せて貰えないじゃろうか……」
「ええ、いいですよ。少し手間はかかりますが、可能です」
「良かった……」
老人は、あの頃に想いをはせるように、その写真を見詰めた。
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