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始業式の最中も晃のことが頭から離れなかった。好きなことや嫌いなこと、好きな異性のタイプなど、知りたいことはたくさんあった。友達という関係になったうえ、相手のことなんか何一つ知らない。だからこそ晃のことをたくさん知りたい。そんな風に思う気持ちが自分の心の中に存在していた。
「以上を持ちまして、始業式を終わります」
教頭の閉会の言葉で始業式が終わった。晃のことのことを考えていたせいで結局半分以上話を聞いていなかった。始業式が終わると、生徒たちが次々と体育館から退出していく。二階階段を下りていく最中、碧は背後から声をかけられた。声でだれかわかってはいたが、わざと無視をするわけにはいかない。そう思い後ろを振り向くと、碧の背後には晃がいた。
「あ-お-ちゃん♪始業式の時、ずっとぼ-っとしてたけどなんかあったの?」
「べっ、別に。なんでもねぇから」
碧の少し焦るような返事に晃は怪しいと感じていた。さっきまで大人しい素振りを見せていた碧も、嘘をつくときには必ずわかりやすいごまかし方をする。晃はそれを見抜き、碧は自分に対して嘘をついているとわかってしまったのだ。
「ヘぇ-、そうなんだ-。ていうか、嘘ついてるのバレバレだよ」
「うっ、嘘…?なんのことだよ」
「そうやってごまかさないでよ。教えてよ。本当は何考えてたの?」
晃が鋭い目つきで碧を見つめる。彼の目つきに多少の怖さを覚え、本当のことを言うのにためらいたくなった。しかし、これ以上嘘をついてごまかしたくないと思ったので碧ははっきりと言うことにした。
「本当は…。お前のこと考えてた」
「ヘぇ-、そっか。あおちゃんって素直なんだね」
晃は楽しそうに笑う。その笑顔がかわいく感じ、碧は「素直」という言葉を言われても反論するようなことはしなかった。一階に降りて教室に続く廊下を歩き二人そろってA組の教室に足を踏み入れる。
教室の中は戻ってきていた生徒たちが帰る準備をしながらわちゃわちゃと騒いでいた。今日は特に授業もなく始業式が終わったら各自解散ということになっている。早く帰ろうとした碧は速攻で準備を進め、教室を去ろうとした。校門前でたむろして話すような友人も特にいないので、靴を履いたら早く帰って大学受験のための勉強をしようと碧は考えている。
教室を出て靴棚に向かおうとしたとき、碧は晃に声をかけられた。
「あおちゃん、一緒に帰ろ♪」
「はぁ…。本当は早く帰って勉強しようと思ったんだけど…。まぁ、別にいいよ」
「やったー!ありがとう。あおちゃんは優しいね。ていうか勉強って大学の?」
「そんな感じ。俺、推薦狙ってるから。たとえ定期とかで上位キ-プできてても、模試や本番で力出せなかったら意味ないし」
自分の進路のことをはっきりと決めて、それを晃に伝える碧。その話を聞いた晃は驚いたような表情を浮かべていた。同じ三年、同じ受験生でもこんなにも目標に向けての努力度が異なっている。そう思った瞬間に晃は少し後悔してしまった。碧のようにちゃんとしけおけば…。晃は遅れてしまっていると悔しさを抱く。
「そっか。頑張って」
今の晃には碧にそれくらいのことしか言えなかった。今まで面倒ごとは後回しにしていた晃は受験だって何とかなるだろうと甘い気持ちで考えている。だから、進路が確立している人間を前にして晃は返す言葉がなかったのだ。
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