エピソ-ド1 記憶

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 靴棚で外靴に履き替え、校門を後にする二人。碧と晃は帰り道が一緒だったので二人並んで帰ることが可能だった。いつも一人で帰ってきた碧にとってはあまり経験したことのない経験。だから、何を話せばいいのか碧はわからなかった。青空が満開に咲き誇る桜の木と道を歩く二人を見守り、日の光がそれらを明るく照らす。  何も話すことなく歩幅がバラバラで歩く二人。それに耐えきれなかった晃は、碧にさりげなく話題を振った。 「ねぇ、あおちゃん。今日俺の家で勉強しない?」 「は?」 「友達同士で勉強したほうが頭に入りやすいと思って」 「んなこと言われても…。そもそもお前は大学行くのかよ」 「一応行くつもりだけど。けど、受験勉強はまだ早いかなと思って」  素直な気持ちを碧に打ち明ける晃。それを聞いた碧は彼に対してそっけないような態度をとって、言葉を返した。 「あっそ。けど、早めに受験勉強しといたほうがいいぞ。後々困るのは自分だし」  晃は碧に正論を叩き込まれた。確かに、早めの準備をしておいたほうが自分のためになるかもしれない。だが、たいていの受験生が本気で勉強にいそしむようになるのは精々夏休み中くらいからだろう。だが、進級したてのこの時期から受験勉強をし始めるのはいくらなんでも早すぎる。晃はそう思った。碧の先ほどの発言に対し、晃は反論の意を唱えた。 「そうだけど。さすがに今からは早くない?僕は受験勉強より来月の定期考査に向けて勉強すべきだと思うけど」 「早い…のか。けど俺が行きたい大学は他のAO入試よりも少し早く試験があるんだ。だから…」 「少し早くって言っても、たった数日の差でしょ?そんな早くから過去問とか解いてたって頭パンクするだけだよ」  笑いながら晃は碧に言った。碧は「確かに…」と言って晃の意見に納得する。並んで歩きながら話す時間。それは碧自身にとってとても楽しいといえる時間となっていた。結局碧は自分の家で黙々と勉強をするのではなく、晃の家で二人仲良く勉強することにした。今日は晃の両親が仕事で夜遅くまで帰ってこないらしい。つまり、二人きり。異性の男女が誰もいない部屋に二人きりというシチュエ-ションだったら確実によからぬことが起きるに違いないだろう。しかし、それは同性同士でも考えられる。近年では、男同士の恋愛(BL)や女同士の恋愛(GL)などが存在する。もしかすればよからぬことが起こってしまうかもしれない。  碧は晃についていき彼の家に向かう。自分の家と反対方向の道を歩くには初めてだった碧は道に迷ってしまいそうで怖かった。少し高級そうな家が立ち並ぶ住宅街を歩く二人。もうしばらく歩いたところで、晃が足を止める。そして、少し後ろを歩く碧のほうを振り向いて言葉を放つ。 「着いたよ。ここが僕の家」 「ここが…?結構いい家だな」 「ほめてくれてありがとう。鍵は開いてるはずだから、入っていいよ」 「わかった」  晃の指示に素直に従い家の中に入る碧。友達の家に行くのは初めてで少しテンションが上がっていた。きれいで広い玄関、しっかりとフロ-リングされた床、家を明るく彩るために置かれたといっていいぐらいの美しくいけられた生け花、高く開放感のある天井。碧はきらきらと目を輝かせていた。その子供みたいな反応を見て、晃はくすっと笑う。 「あおちゃん、僕の部屋二階だからついてきて。家の中は後で案内してあげるから」 「わかった。今行く」  そう言うと碧は自分の履いていた靴を脱いできちんとそろえておいてから、二階に続く階段を上っていく。友達の家で二人きりという展開は正直慣れてない。碧からしてみれば、何が起こるかすらもわからない。だから、楽しみというよりは不安のほうが大きいのだ。  階段を登り切り、二階の短い廊下で足を止める。近くにある複数の部屋のドアには誰の部屋か、何の部屋かがプレ-トに分かりやすく記載されていた。階段を上ってすぐの廊下の正面の部屋のドアにローマ字表記で「KOU」と書かれたプレ-トがかけられている。これかもしれないと思い、碧は正面の部屋まで近づきドアノブを握りその部屋に入った。  
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