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人の目を騙す職業……か。詐欺師とか、それこそ怪盗なんて可能性もあるかもしれない。
どちらにせよ、この男が只者ではないということが分かる。
「…………」
男は黙ったままこちらの様子を伺っている。
……私が何かしらの行動を起こすのを待っているようだ。
しかし、ここで私が行動を起こしたところで勝てる見込みはない。
……どうするべきか。
サッ、とバルコニーにあった影が降りてくるのが視界に入った。高い位置からの着地も軽々とこなす様子はまるで猫のようである。
そのままこちらに近づいてくる。
私が行動を中々取らないことに痺れを切らしたのだろうか?
気づけば男は私の目の前で、身長を合わせるように屈んでいた。
「……ほぉ、綺麗な瞳をしていますね、探偵さん」
「……!」
突然、顔を覗き込まれて思わず後ろに下がる。
だが彼はそれを気にすることなく話を続けた。
「そういえばまだ名を名乗ってませんでしたね。私の名はロベルト・デ・コーデキルシュと申します。以後お見知りおきを」
「……な、何が目的なんですか?」
「なに、貴方のその瞳が気に入っただけですよ。まあ、そうですね。強いて言うなら、貴方のその目に恋をした、といったところでしょうか?」
「こ、こい……!?」
あまりにも想定外の言葉に素っ頓狂な声を上げてしまう。
「あぁ、それとも怪盗らしく『貴女の心を奪ってみせましょう』、とでも言った方が良かったですかね?」
「……ボロを出しましたね! 怪盗だと認めてくれてありがとうございます!」
「えぇ、貴女がなかなか答えを出してくれないので痺れを切らしてしまいまして」
そんな事を言う彼の表情は屈託の無い笑顔である。
……全く、嫌味な人だ。
「……では、私はこれで失礼しましょうか。あぁ、その招待状自体は本物ですのでパーティーにはちゃんときてくださいね」
「……あ! 待ってください!」
そう言って立ち去ろうとする彼を咄嵯に引き止める。
「なんでしょう? 」
……引き止めたはいいものの、何を言うか全く考えていなかったことに気づく。
いつの間にやら怪盗ロベルトは既にうちの事務所の屋根の上。
もうこの状況では彼を捕まえることは叶わないだろう。
だったらせめて…………
「……私、貴方を捕まえますから! 覚悟していて下さい!」
「……ふふっ、楽しみにしてますよ。小さな探偵さん」
そんな言葉を残して彼は、澄んだ青空へ溶けていくように姿を隠した。
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