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けたたましいノックと共に、部屋に入ってきた母さんは念仏のようにいつもと同じ言葉を繰り返す。
「朝ご飯できたわよ。早く起きなさい」
布団を頭までかぶって「嫌だ」とつぶやく。
そんな僕のささやかな抵抗を無視して母さんは乱暴に布団を剥ぎ取りにくる。
「何が嫌なもんかい。さっさと起きなさい」
「嫌だ!」
今度は強く、はっきりとした意思を乗せて否定した。
さすがに母さんも息子の異常を感じたようで剥ぐ手を止める。
「どうしたの? 学校で何かあったの?」
改まった声には優しさがこもっていた。
今なら話せる、そう思って僕は想いを告げることにした。
「僕はもう嫌なんだ」
「何が嫌なの?」
「みんな僕の事が嫌いなんだ。裏で陰口言ってるのを聞いたんだ。先生たちもそうだ。いつも僕を厄介者みたいに扱う」
零れた涙がシーツを濡らす。
「学校に僕の居場所なんてない。ただの地獄だよ。だから僕はもういきたくない」
言った。言ってやった。今まで心配させまいと隠していた気持ちを全部言ってやった。誰にも学校は必要というけれど、本当に僕にとっては地獄だ。なぜあんなところにいかなければならないのか不思議でならない。どうせ嫌われ者の僕一人がいなくなったところで何も変わることはないんだ。
いる意味のない場所に、いく意味なんてないんだ。
身を丸め、もう一生ここからでないつもりでギュッと布団にくるまった。
そんな僕の懇願も虚しく、母さんは布団を執拗に引っ張り、強引に剥ぎ取った。
「何言ってんのアンタ。もう52の校長先生なんだから早く支度しなさい」
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