第1話

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第1話

 『大事な話がある』  と、涼からラインが来た。大事な話というのは、別れ話だろう。部屋の中、一人、スマホを握りしめながら愚痴る。 「グループデートなんて、参加しなければ良かった……」  私の脳裏に、あの日の涼の笑顔が、はっきりと映る。 「あんな笑顔、私には見せたことなかったじゃない……」  悔しかった。  ◇  5月。キャンプ場。澄みきった青空の下、私達を含めた3つのカップルで、バーベキューパーティーをした。夏帆さんとは、初めましてで、あとは去年卒業したばかりの大学頃からの仲間だった。だから、油断したというか……。  だってあんな風に、涼が夏帆さんと意気投合するなんて、想像しなかった。涼に限って、誰かの彼女と仲良くするなんて……。  その日、涼と夏帆さんは、独特の輝きを放った。  好きな小説家さんが同じだったらしく、あの本のあそこが良いだの、あのラストの一文が好きだの、二人は随分とはしゃいでいた。  「私も!」「僕も!」そう言って。  輝く笑顔があんまり眩しくて、私はびっくりしてただそこ突っ立っていた。なんだろう、これは?って思いながら……。  涼が、興奮している。  私を忘れて……。    緑の多いキャンプ場に、風が吹き、木々が揺れた。さわさわという音で、涼は、自分自身の気持ちと状況に、はっとしたらしく、私の表情を確認するために、私の顔を覗き込んだ。  私は、涼と目を合わせ微笑んだ。「大丈夫よ」って。寛容な女を演じた。すると涼は、安心したような笑みを見せてから、視線を夏帆さんに戻した。  涼が見つめる夏帆さんは、ショートヘア、お化粧なしの、少女という感じの女性。純粋無垢なその感じにムカついた。だって、純粋というエネルギーは、あっという間に涼を魅了してる。そして、計算ではない夏帆さんのそれに、私は手も足も出ないんだもの……。  ◇  スマホ画面の、『いつものスタバで、いつもの時間に』という涼からの短い文を眺めながら、「この頃、そのいつもの土曜日の時間が忙しくて、会えないと言ってたくせに……」と、悪態をつき、スマホをガタンと音を鳴らすようテーブルの上に乱暴に置いた。  私は、明日、振られる。
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