再会

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 俺は留依とも連絡先を交換して、機会があったら一緒に練習をする約束をした。丈二を誘う話も出たが、本人がバンドを嫌がっている所があるので、気が変わるのを待つ方が良いだろうとのことになった。留依がこの事は丈二に伝えておくとは、言ってくれた。  留依がどうして、俺がここで練習をしていることが分かったのか、気になったので聞いてみたら、丈二から恵人の事を色々と聞いていたと、答えがあっさりと返ってきた。  お互い仕事をやりながら、音楽活動をすることになったが、問題はない。メンバーがしっかりと揃っている訳でもなく、オリジナル曲を持っていないし、ライブやレコーディングの予定なんて組めるような状態じゃないのだから。  お互い、予定が取れる時に、好き勝手に音を出しまくる事を楽しむだけだ。  俺は何度か留依と一緒に、スタジオで重低音を響かせまくる。留依との演奏が合うようになるのに、時間はかからなかった。  こうなってくると、ギターの音が欲しくなってくるが、今の俺達には贅沢な欲なのかもしれない。  俺は今日も留依と重低音を重なり合わせる。  練習が終わり、廊下で留依と立ち話をする。 「俺は工場で仕出し関係のバイトをしているけど、留依は何をやっているんだ?」  音楽でやっていけなくなった以上、何の仕事をしているのか、気になる所だ。 「小さい診療所で看護師をやってるよ」 「えっ……お前……資格、持っているのか?」  意外な答えに、言葉が途切れてしまう。 「持ってるよ。A診療所にいるから、風邪とかひいた時は来なよ。面倒見て上げるから」 「いや……絶対、行きたくないな。何かされそうだ」  苦笑いしながらも、思わず本音のような感じで言ってしまった。 「はっ!舐めてんのか!」  留依の蹴りが飛んできたが、身体を横にずらして避ける。  お互いに笑ってはいるけど、その勢いで患者さんを殴ったりしていないよな。  思わず心配をしてしまう。 「ところで、今日の練習の動画、丈二に送っておくから。あいつの気が変わる事をねがってさ」 「そうだな。その動画を見て、気が変わってくれると嬉しいな」  そんな会話を交わしながら、お互い笑顔で別れる。  次の練習も二人になるだろう。人間の気持ちって、そう簡単に変わるものじゃない。ただ、人間は何かのきっかけで、一瞬で変わってしまうこともある。俺はその何かのきっかけに期待して、帰路についた。
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