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俺は仕事が休みの時は、なるべくスタジオを抑えて、ドラムの練習をするようにした。練習をやる日については、丈二と留依に連絡もしている。都合が良ければ、皆でバンドを楽しみたい。そう思っていたから。
けど、時々、留依と一緒にやる時くらいしか、ドラム以外の音を聞くことが出来ないのが現状だ。時には留依から誘いがある時もある。
仕事と言ってもアルバイトのままだが、首にならずに済んでいる。休みが不定期なのが困る所だが、我儘を言えるような立場ではないことくらい、分かっている。
今日もスタジオ内は重低音に満たされる。俺達は爆音をぶちかまし、二人だけのヘヴィな空間創りを楽しんでいた。
不意にスタジオの分厚いドアが開く。
「重低音ばかり聞かされていたから、気分が悪くなった。高音を加えて、バランスを取らないと話にならないな」
丈二はそんな事を言い、エレキギターのセティングを始める。シールドをマルチエフェクターに通してアンプに繋ぎ、爆音を一気に炸裂させる。
「始めようか」
俺と留依は微かな笑みを浮かべる。
「曲は何にする」
「この前、動画で送ってくれた曲で」
スティックでカウントを鳴らし、爆音がスタジオ内を占拠する。
ギターが入ってくれば、演奏内容は大きく変わって来る。重低音の旋律に色々な華が添えられることになるのだ。
丈二のギターは良く聞いていた。良く知っている。問題なく受け入れられる。
メタル系の重量感のあるフレーズで決めて来るかと思えば、やたらと哀愁感の漂うメロディーを弾いてくることもある。
間奏では弾きまくることが多い。ライトハンドを使って、スピーディーかつクラシカルな様式美に拘ったソロで攻めてくる。演奏スタイルは常にアグレッシブだ。
決して守りになることはない。
ロックサウンドを構築していくのに欠かせない存在だ。
とにかく、練習は何時も以上の派手な盛り上がりを見せた。
俺にとっては、久しぶりのバンド練習となった。
ドラムのリズムは更なる熱を帯び、アンプから押し寄せてくる圧倒的な音の圧を押し返す。ギターとベースの音圧も、ドラムの音を打ち負かすかの如く、暴風雨のように押し寄せてくる。
火花を散らすかのような音のぶつかり合いの中、新しい何かが生まれるような気配が、ナイフとなり突き刺さって来るような感覚として、スタジオ内の空間を駆け巡る。
三人の個性が衝突を続ける、余りにも熱すぎる空間。
二時間の練習時間が通り過ぎるのは、つかの間のことのように感じた。
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