新たなる活動

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新たなる活動

 三人が集まれるのは月に一回程度だ。それでも、問題は無い。俺達は其々が打ち出す音をぶつけ合って楽しんでいる。  最近は留依が、ボーカルも取るようになってきた。激しい雄叫びを上げ、メロディーを無視したようなボーカルを展開させる。ガテラルヴォイスを放ってきたかと思うと、不意にクリーンヴォイスで決めてきたりと、忙しい歌い方だ。前のバンドでも、ベースを弾きながらこんな感じで歌っていたシーンが頭の中に浮かんでくる。  全体的には濁りを効かせたような感じの声で、重さと切れを兼ね備えたかなりパワフルな歌い方だ。  練習が終わり、俺達は廊下で雑談をしていた。 「ねえ。バンドとしての形は出来た事だし、オリジナル曲をやってみない」  留依の提案は常に不意打ちだ。バンド演奏を楽しむことが出来るようになってきただけで、満足をしている俺には驚きの提案だ。 「俺はドラムしか出来ない。作詞、作曲は無理だな」  ギターが少しでも弾けたら、チャレンジ出来たかもしれないが、俺には無理だろう。出来るとしたら、留依か丈二だ。 「俺はアレンジなら得意だけど、作詞、作曲は……。全く自信がない。勘弁してくれ」  丈二から意外な回答が返ってきた。 「二人ともやらないと。それじゃ、私の曲で良いと言うことかな」  留依の積極的な問い掛けに、俺達は静かに頷く。  オリジナルに取り組むのも悪くないだろう。かつては、それを生業にしていたのだから。 「じゃ、決まりね。取り敢えず、打ち込みで作ったやつを送るから、次の練習までには、フレーズを固めておいてよ。よろしく!」  俺と丈二は笑みを浮かべて、了解をする。 「丈二がどんなギターフレーズを準備してくるか、楽しみだな」 「俺も、お前がどんなドラムで攻めてくるか、楽しみだよ」 「まだ、どんな曲か教えてないんだけど」  留依の一言に、三人が一斉に笑い出す。  俺達は和やかな空気感を楽しみながら、次の練習に大きな期待を寄せて、別れることにした。
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