新たなる活動

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 俺の仕事は暇になると言う概念が無い。人間から食欲と言うものが消え去ることが無い限り、無くなることがないのだから。そう言う意味では、良い仕事を選択したのかもしれない。頑張って続けた事もあり、最近では、アルバイトの中ではリーダー的な存在となった。その分、仕事もきつくはなってきたが、悪い事じゃない。  そんな事情もあるが、俺はドラムの練習も続ける。自分にとっての充実を感じる日々を過ごす中、バンドの練習を迎えることになった。  今日の練習は何時もとは違う。ただ其々の音をぶつけ合うだけではない。ぶつけ合った音を、しっかりと絡み合わせて、作品として完成させなければいけない。  二人も何時もとは違う緊張感を漂わせている。ピリピリとした空気の中、留依が話し始める。 「ユートピアからやってみようか」  音源を貰った順番からしたら妥当な始まりだ。俺と丈二は軽く頷く。  スティックを叩き、カウントを入れる。  放たれる爆音が、スタジオ内で暴れ始める。ハイハットをハーフオープンにして、リズム全体を煩過ぎる状態にし、速いスピードに重量感を持たせ、凶暴なリズムの疾走を表現していく。  丈二のしっかりと作り込まれたメタリックな音が炸裂する。細かくザクザクと刻まれる音の旋律が、破壊的な世界観を作り上げて行く。  留依の硬いメキメキとした音が、爆音の弾幕を突き抜けて行く中、鋭いナイフのような歌声が、切り込んできた。  間奏に入り、丈二がライトハンドを駆使したソロを展開させる。最終楽章に近づき、ツインペダルを連打して、重低音の音数を増やすことにより音の層を厚くして、疾走感に更なる拍車をかけて盛り上げて行く。  何とか演奏を終えることが出来た。途中で止まることがなかったのだから、上出来だろう。 「良いんじゃないの。次の曲いこうか」 「ユートピアは今みたいな感じで良いのか?」 「細かい所は後から。今の勢いで一ミリ先もやってみたい」 「了解!」  俺はカウントを入れ、また爆音を叩きだす。暗く不気味な感じの曲だが、スピード感と音の切れが重視される。イントロは激しく行くが、歌に入った時点で、一旦、演奏は全体的に抑えめにする。  曲が進むにつれ、激しくしていき、サビで爆発をする。間奏に入り、リズムを一旦、スローにして、途中から元のリズムに戻し、後は激しい状態をキープして、エンディングに持っていく感じだ。  この曲も途中で止まることなく、駆け抜けることが出来た。  二曲ともかなり激しい曲だが、問題なく行けるだろう。そう感じた瞬間だった。  これから先は、細かい部分を詰めて行くことになる。サビの所のリズムを変えてみたり、フレーズの第二、第三の案を試してみたりと、試行錯誤の中に入り込んでいくことになる。  楽しくもあり、中々形が決定しない時間が、もどかしくもある。  オリジナルの楽曲は、何回か通して演奏をしていくと、其々のフレーズも変化をしていく。完成形が存在しないと言う事では、生物のような存在なのかもしれない。  ライブで行ったその時の演奏が正解なのかもしれないが、次の演奏ではスタイルすら変わっているかもしれないのだ。  完成を持つことの無い存在。  三人による永遠の探求が、ここに始まったのかもしれない。  今回は、オリジナル曲の練習と言う事もあり、スタジオは三時間抑えたが、いつものようにつかの間の出来事でしかなかったように感じた。
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