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三人の仕事がバラバラと言う事もあり、三人で集まって会話をする時間は少ないが、今はネットがそれを埋めてくれる。
文字では伝わりにくいものも、顔文字でなんとなくだが表現できる。
『そう言えば、バンド名、決まって無かったよね』
留依から連絡が入る。
『そうだな。次回の練習の時にでもきめようか』
『恵人。忙しい?俺はこの場で決めても構わないよ』
丈二から、ここで決めても構わないと返信が来る。
『丈二が大丈夫なら。俺も仕事が始まるまで、まだ時間はあるから』
『了解。皆、何か提案とかあるかな』
『不意に振られても、厳しいな。特に考えていた訳でもないし』
『そうだな。今から考え始めたようなものだし、留依は何か案があるのか』
丈二が留依に振る。
『あるよ。実はずっと考えてはいたから』
『何?』
『敗北者!良いでしょう!』
いきなり想定外のバンド名が提示された。普通、もっと格好いい名前を付けないか?留依の考えている事は相変わらず分からない。
『敗北者?何処からそんなネーミングが?』
思わず聞き返してしまう。
『事実でしょう。これからライブとかやるんでしょう。晒される前に白状しているほうが、潔さもあるし、良くない』
なんとも言えない説得力だ。
『考えとしては悪くないけどな……』
丈二の返信からも、不安な感触は見て取れる。
『悪くないでしょう!なら、決まりね!バンド名は敗北者に決定!』
『決定かよ。ちょっと待てよ』
『他に案があるなら、検討の余地はあるけど』
既に上から目線の返信がきた。
恐らく人の話を聞く余地は無いだろう。このバンド名で押し切ってくることは明白だ。
確かに俺達は敗北者であることに間違いは無い。真実を如実に語っている。
『ダイレクト過ぎるが、悪くないかも。少し考えてみたが、俺達には良い響きの言葉に思えないか』
丈二からの返信がきた。
確かに格好いい感じはしないが、少し微笑ましい感じもしてきた。
『そうだな。いつまでも気にしているより、笑い飛ばしてしまう時期かもな!』
思い切った返信をしてみる。
人間の気持ちなんて、何かのきっかけがあれば、一瞬で変わってしまうものだ。
『そういう意味合いも込めて、考えたバンド名前だから』
本当か?と言いたくなるような返信が留依からくる。
中々決まらずに難攻してしまうものが、あっさりと決まってしまった。信じられない瞬間を間の当たりにした訳だが、これはこれでありだろう。
この三人だから、成し得ることが出来たのかもしれない。
俺達は動き始めたのだ。
敗北者として!
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