新たなる活動

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 俺達は何度か練習を重ねることにより、オリジナル曲も増えてきた。全てが留依の作詞、作曲によるもので、落ち着いた感じの曲は一曲もない。  激しい曲ばかりだ。タイトルは『吠える雨』『Fighting Machine』『Sad Dream』と激しさしか連想することが出来ない。内容も相変わらずと言った感じだ。難解で激しいのだ。一体、どんな本を読むと、このような激しくも難解な詩が書けるのだろうか、と俺と丈二はいつも疑問に思っているが、敢えて聞かないことにしている。  やたらと難しい本を薦められて、後で感想文を書かされることになったたら、堪ったものではない。  オリジナル曲が増えた。演奏のレパートリーもコピーを含めれば、十数曲はある。小さいライブハウスで、演奏時間も短くて構わないから、ライブをやってみたい。そんな衝動にかられてきた。  二人に話をしたところ、是非、やろうと言うことになり、俺は、デビュー前に世話になったライブハウスに連絡を取ってみた。  経営者が変わっていなかったので、話はスムーズに進んだ。今はプロでやっている訳ではないので、チケットを売る当てはないが、場所代とチケットノルマを支払うことで出演をさせて貰うことになった。  演奏時間は入れ替え時間を含めて四十分。十分だろう。オリジナルとコピーを混ぜて、五、六曲はやれる。  昔はライブを控えた時期になると、鬼のような練習をしていたが、今は特にやってはいない。バンドとしての練習は、ライブ前に一、二回、合わせる練習をして終了だ。後は個人練習を頑張るしかない。  働きながら、趣味でバンドをやっていれば、こんな感じだろう。溜め込んだ経験値で乗り切るしかない。言ってしまえば、本番も練習のうちと言う事だ。  だから、今回のライブは特に宣伝は行っていない。聞きたい人がいるなら、その人達だけが聞いてくれれば良い。暫くは、自分達の音の表現を楽しむ事が出来れば、それで満足だ。この考え方に対しては、二人から特に意見が出ることは無かった。  ライブの本番を迎えても、以前のような緊張感は無く、三人が控室にいる状態でも、ピリピリとした空気を感じることは無かった。音楽の話しはせず、世間話で談笑を続け、リラックスし過ぎているような状態だった。  前のバンドの演奏が始まり、ようやく準備を始めるような状態だ。  出番を迎え、ドラムセットの調整をしている時に、少しの緊張感を覚えた程度だった。  演奏が始まれば、いつもの練習をしているような感覚だ。背負っている物がなく、純粋に好きな音楽を楽しんでいると言う事なのだろうか。  お互い笑みを浮かべながら、決めのフレーズを合わせる。三人がプロでやっていた時には、見ることのなかった演奏風景がここにあった。  留依のMCも、尖った感じではなく、皆の笑いを誘うような感じだった。書いている歌詞とのギャップを、俺と丈二が楽しんでいるような状態だ。  ただ、演奏と楽曲はかなり激しい。  爆音バンドとしての存在感だけは、しっかりとキープしていた感じだ。  久しぶりに浴びたスポットライトの眩しさと熱さを感じ、狭いステージから、自分達が純粋に楽しむために作り上げた音を、観客席に放ち続け、俺達のステージは終わった。  特に目立った声援は無く、応援をしてくれたのは共演者達だろう。  俺を含め、二人とも、客は呼んでいない。  寂しく感じるかもしれないが、昔の知り合いに義理や人情で来てもらったとしても、昔を思い出すだけだ。過去の栄光を取り戻すためにやっている訳じゃない。それに、今の心から楽しめている音を、昔の俺達の音と比べられたくない。   色々な想いが複雑に絡み合う中、俺達の選択に問題はなかった筈だ。  恐らく、これから先のライブも、自ら観客を呼ぶことは無い。  自己満足と言われてしまえば、その通りかもしれないが。
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