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俺達の活動はマイペースだ。皆がやりたい時にやる。それで十分だろう。自己満足の域を出ることに力を入れる気はないのだから。
丈二がMTR(マルチトラックレコーダー)を持っていたので、オリジナル曲については、それなりの音源は作ったが、CDにして売る気はない。
ライブ動画もあるが、それをDVDにして何かしようと言う気も起こらなかった。
全ては自分達の楽しみのためにやっている。
自由気ままにやっていたら、留依がライブの動画をネットに上げた。
『どんな反応があるか楽しみだね』
『俺達の事なんて、もう忘れられているだろう』
『反応があったら、それはそれで面白いかもな』
俺達も特に何かを期待した訳ではない。どちらかと言うと、面白半分でのせたような物だ。
数日後にコメントを見てみる。
『瞳 留依だよ。まだ、やってたんだ』
『ギター、丈二だよ。ドラムは恵人だ。面白いコラボだ』
『音楽を続けているとは思わなかった』
『相変わらずの楽曲だけど、見てみたいな』
『バンド名が……。凄すぎる……』
酷評もあったが、良識的なコメントが多かった。俺達の事を覚えていてくれていた事には、驚きを隠せなかった。
忘れ去られてしまう事ほど、寂しいことはないからな。
なかには、『見に行きたい。ライブの告知をしてよ』とありがたいコメントもあった。
気紛れな活動だけど、ライブを行う時は、このサイトに告知をすることにした。月に一回やれば良い方だが、ライブハウスの経営者からは最近、敗北者目当てで来るお客さんが増えてきたよ。近いうちワンマンで行けるんじゃない。と言われたが、特には気にしていなかった。
動画のアップ数も増やしていった。本格的な撮影機で撮ったものではないので、画像は荒く音は割れているが、ライブの演奏と雰囲気は何とか伝わる筈だ。
閲覧数やコメント数が増えて行く。理由は分からない。
注目度が上がっていくような感じに、喜びを覚えるのは、誰にでもある事だろうと感じつつ、表情が緩んでしまうのは、元プロであった性なのかもしれない。
ライブハウスでのライブも、反応が変わってきたのを感じる。明らかに共演者達以外の人達が、盛り上げてくれているのだ。チケットノルマからの戻りが発生しているのだから、勘違いではない。
収入が発生するようにはなったが、全体的に見れば赤字ライブだ。音楽活動を楽しむために、日頃、仕事を頑張っているような生活だ。
『CDが欲しい』と、サイトに書き込みがあったが、この要望には答えられない。パソコンで簡単な物なら作れるが、内容的には無料配布レベルの物になってしまうだろう。
ただ、聞いてくれる人がいる。音楽活動をしている俺達にとって、この上なく嬉しいことだ。
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