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再戦
俺達の活動がいつの間にか、少し話題になっていた。元プロのミュージシャンが、引退後も音楽を続け、新たにバンドを組んで活動している。しかも、メンバーは皆、同じ境遇の持ち主ときている。
同じ境遇……。
それは、コンピューターに戦いを挑み、敗れ去った事……。
引退の引き金となった、嫌な想い出だ。記憶から消し去ってしまいたいが、浴室に発生する黒いカビの如くこびり付いて、消えようとはしてくれない。
これは、三人とも同じ想いだろう。
あの時、俺達を打ち負かしたコンピューターサウンドは、バンドの形態でデビューを果たし、人気は鰻登りだったような気がする。
勝者に与えられた特権と言ってしまえば、それまでかもしれない。ただ、あの勝負が仕組まれた物であった事を想い出すと、怒りが沸々と湧いてくる時もあるが、今更、騒いであの勝負をひっくり返しても、失った時間が戻る訳ではないのだ。
結局は、金になるものが、全てを掌握することが出来るのだ。
分かっている。だから、今の状態を楽しんでいるのだ。
俺達は恒例となった月に一度の練習に励む。心地良い汗を飛び散らせ、二人が放つ爆音に、ドラムの音を叩きつけ、絡み合わせて行く。
純粋に音楽を楽しむことが出来る時間を持つことが出来ている。
これ以上の物を求めるつもりはない。
「練習が終わったら、話があるけど、良い?」
留依が休憩の時に話しかけてきた。
「構わないぜ。今日は仕事、休みだし」
丈二も大丈夫と言った。俺達は練習を終えた後、近くの喫茶店に入ることにした。真剣な話になるので、酒は抜きにして欲しいと留依からの要望もあったから……。
真剣な話……。
気になる所だ……。
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