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5月の清冽さを含んだ甘い匂いが土の匂いにかき消された。
先ほどまでの青空は東へと去り、西から砂埃が風に乗って流れてくる。
(やばい。降ってくるな)
陽翔は自転車を降り周囲を見回す。
予想通り堤防の上のアスファルトに、黒く大きなシミがひとつふたつとでき始めた。そして瞬く間に周囲は穿つような雨脚に覆われる。
陽翔は堤防道路を逸れ、砂利の坂を河川敷に向かって斜めに下ると、近くにあった橋のたもとに駆け込んだ。すでに制服のズボンはずぶ濡れ、開襟シャツは湿って肌に張り付いている。しかし里川にかかった橋の下は幸い雨が遮られ、雨をやり過ごすにはちょうど良かった。
陽翔は自転車を橋脚のコンクリートの壁に立てかけると、川の様子を眺めた。いつもより水かさが増しているが橋脚まで迫ってくる気配はない。
ほっと一息ついて橋の下から西の空を見ると、真っ黒な雲が遠くまで連なっている。
(しばらく止みそうにないな)
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