私、清宮華音(きよみやかのん)です。

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 振り返って東の空を見ようとしたとき、自分と同じように砂利道を下ってくる少女の姿が目に入った。  白いブラウスにルビーレッドのリボン、下にはリボンと同じ色のプリーツスカートをはいている。  しかしこの雨で全身ずぶ濡れ。セミロングのブラウンヘアは額や首に(まと)わり付き、(あご)と指先から水が滴っている。  少女はぼくと同じように橋脚の壁際に自転車を置くと、少し離れたところに立ってハンカチで髪や体を拭き始めた。  陽翔(ひなと)は、そんな少女を見つめるのが恥ずかしくて、飛沫(ひまつ)に煙った遠い川面に視線を向ける。見ず知らずの少女に話しかける理由もないので黙っていた。  少女は一通り体を拭き終えると、ハンカチを固く絞り、いったん開いて四角く折りたたむとポケットにしまった。  少女が視線を遠くに向けたとき、陽翔は横目でちらりと少女を見やる。  色白で細身。大きめの瞳の下に涙袋があるためか視線に厳しさはなく、むしろ愛くるしく見えた。  上唇が少しだけ厚めだが、捲れ上がっていないため、顔全体からは優しさと落ち着きが感じられる。 .
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