こいでも、恋でも

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 あぁ~、肘からまた~……。  あぁ~、バックパックが背中にビッタリ~……。  あぁ~、おでこから~。あぁ~、こめかみから~。あぁ~、鼻から~。……汗がぁ~!。  あっ、口に入った! ううぇ!―――でも、  こがなきゃっ!  置いてかれたら、この東京砂漠を永遠に彷徨い歩く―――いや、自転車乗ってるから、彷徨いこぐ、迷い人になっちゃう。  ところでここ、どこなのよぉ~!?  先輩! ママチャリのあたしのことを考えてゆっくり走ってくれてるのは大変ありがたいんですけど、残念ながらそのお気遣いは、先輩の操る自転車の性能に完全に消されています!  だってそれ、スポーツタイプの自転車でしょ? ハンドルが下に向かってくるっと曲がってて、思いっきりうつ伏せ状態でこいでますもんね。ひとこぎで、軽くあたしの一〇こぎぶんぐらい進みそうですもん!  それに、さっきからあたしがちゃんとついてきてるか、ことあるごとに後ろをふり向いて確認してくださるのはとっても嬉しいんですけど……申し訳ありませんが、やめてくださいっ!  あたしの顔、すっかりメイクが落ちきって、かわりに排気ガスや砂ぼこりが塗りたくられてるんです。しかもこの陽射しで、焼け始めてます。完全にネグロイドになりつつあります。  人種差別する気持ちはさらさらありませんけど、あたしはれっきとしたモンゴロイドです。できれば、本来の黄色人種としての顔を見ていただきたいんです。今は二日酔いの寝起き顔の次に見られたくない顔なんです。ですから、現地について、汗拭いて、しっかりメイク直してからの顔を、ど~ぞご覧ください! それまではずっと前だけを向いて安全運転せよ!  大丈夫です、あたしは意地でもついてきます! 先輩の自転車とは天地ほどのグレード差がある、五年つき合ってるこの錆びだらけのママチャリですけど、操縦者の若さでカバーします! 「大丈夫か~?」  ふり向いた端正な横顔から、涼しげな声。 「あ、はいっ! 大丈夫ですっ!」  だから、ふり向くなって!  あ~あ、まったくもってこんな予定じゃなかったのに……。  ほんとだったら今ごろ、すっかり小道具買い揃えて、夏の午後のひと時を先輩とふたりきりで、アイスレモンティーを飲みながら談笑してるはずなのよ。そして二杯目を頼むと同時に、 「あ、このイチゴ味のマカロンも」
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