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「で、困った福満さんが深沙大王に、『彼女と逢えますように』って祈ると、どこからか大きな亀が現われて、彼を彼女がいる小島まで連れていったんだって」
「ナイス、カメっ!―――でもそのころ、舟ってなかったんですかね?」
「……それはわからないけど」
あたしなにいってんだろ、また!
「とにかく、娘の両親も彼の根性に負けたんだろうな。ふたりの仲を許したってわけらしいんだ」
「はぁ~。やっぱり世の中、根性が物を言うんですね!」
「それでふたりの息子の満功さんは、父親である福満さんの『深沙大王を祀ってほしい』という願いを受けて、出家して法相宗というのを学んだんだって。それから深大寺を建てたと」
「へ~」
「そんな福満さんたちの恋物語があって、このお寺は縁結びのご利益があるということになったそうだ」
「先輩、物知りっ!」
「すべてネットの受売りだけど。―――せっかくだからお願いしていったら?」
「縁結び……のですか?」
「そう。結びたい人のひとりやふたり、いるんだろ?」
「えっ!?」
いますよっ! いるに決まってるじゃないですかっ! いるからここにこうしているんじゃないですか、裏金と裏工作使って! 先輩わかってたんじゃないんですか、こっちの気持ち! それにだいたい、今の発言はセクハラに相当しますからね、普通は!
「いますっ! ひとりぃ!」
という返事は、いらつきを隠しきれていなかった。―――でもしょうがないわよ。子供のころから素直さだけが取柄だったんだから。
「だったら……ほら」
先輩はポケットから百円玉をとりだし、差しだしてきた。
はぁ!? あたしは子どもですかぁ!?
「いいです。持ってますから、百円ぐらい! それにあたし、お参りしません!」
「……なんで?」
百円玉を差しだしたままの先輩は、不思議そうな表情を浮かべた。
「お金で縁を取り持ってもらおうなんて思いません! 縁は自分の力で取り持ちます!」
面と向かって答えた。
「でも、せっかくきたんだから」
「先輩! 縁結んでください、あたしと!」
「……」
「……」
「……え?」
「……あ」
間。
「……なに?」
いえ……あの……その……あたし、今なんか……いっちゃった?
……いっちゃったわよね……。だって先輩、「なに?」って……訊き返したもんね。
……あああぁ~!
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