こいでも、恋でも

14/14
前へ
/14ページ
次へ
 途中、どうにか先輩に近づこうと、両足に力を込めた。でもどう頑張っても、まるめた背中とは一定の距離を保つことしかできなかった。それはまるで、あたしたちの関係を象徴しているようで……。  赤信号があたしたちをとめた。  すでに深大寺の涼しさは後方にすぎ去り、鼻の下にはまた汗が滲み始めていた。  目の前には、いつの間にか点灯していたテールライト。  なにげなくそれを眺めていたら―――、  岡沢さんも先輩と同じ、ハンドルが下にくるっと曲がったスポーツタイプの自転車、乗ってたっけ……。―――思いだした。  あたしも買おうかな……そんな自転車。  そしてそれに乗って改めてお参りにきたら、今のあたしと先輩の距離……もしかしたら……。  顔をあげると信号はすでに青に変わっており、先輩はスタートしていた。  右足があわててペダルを踏み込んだ。その途端、またまた鼻の下の汗が口の中に侵入してきて……。ううぇ!  先輩との初デートの想い出は、しょっぱさだけが残った。                                    〈了〉
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加