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途中、どうにか先輩に近づこうと、両足に力を込めた。でもどう頑張っても、まるめた背中とは一定の距離を保つことしかできなかった。それはまるで、あたしたちの関係を象徴しているようで……。
赤信号があたしたちをとめた。
すでに深大寺の涼しさは後方にすぎ去り、鼻の下にはまた汗が滲み始めていた。
目の前には、いつの間にか点灯していたテールライト。
なにげなくそれを眺めていたら―――、
岡沢さんも先輩と同じ、ハンドルが下にくるっと曲がったスポーツタイプの自転車、乗ってたっけ……。―――思いだした。
あたしも買おうかな……そんな自転車。
そしてそれに乗って改めてお参りにきたら、今のあたしと先輩の距離……もしかしたら……。
顔をあげると信号はすでに青に変わっており、先輩はスタートしていた。
右足があわててペダルを踏み込んだ。その途端、またまた鼻の下の汗が口の中に侵入してきて……。ううぇ!
先輩との初デートの想い出は、しょっぱさだけが残った。
〈了〉
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