こいでも、恋でも

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 なんてあたしがメニュー見ながら頼んじゃったりすると、 「伊関(いぜき)も女の子らしいとこあるんだな」  なんて先輩がいうから、 「やだぁ~、これでもれっきとした女子ですぅ~。もぉ~」  なんてほっぺ膨らませたりして、ちょっと怒った顔するのね。  すると、 「活発な面と可愛らしい面持ち合わせてる女、俺、好きだな」  なんて先輩がまたのたまうから、あたしは常日頃練習しているはにかみ笑顔をつくって、うつむきつつ、 「実は、あたしも先輩のこと……」  わっ、口に砂粒入ったっ! ううぇ!    だいたい、あの新宿の雑貨屋がいけないのよ! どんなものでもとり揃えてます。みたいな顔して、肝心なもの置いてないんだから!   いや、いけないのは今回の台本だわ!   “昭和を感じさせるおもちゃ一式が、そこには並べられていた” ―――なんてト書きに書いてあるから!   いや、本当にいけないのは、その台本を書いた部長だわよ!  たいした内容じゃないくせに、状況設定だけは細かくこだわるんだから。そういう芝居こそコケるのが目に見えてんのよ。  まあ、べつにコケようが転がろうがあたしにとってはどうでもいいんだけど。こっちはちょい役だし、そもそも芝居が好きでこの演劇サークルに入ったわけでもないんだから。  では、そんなあたしがなぜ入会したか?   理由はただ一つ。―――今、あたしだけにスマートな背中を見せて走ってる、大原(おおはら)先輩がいたからにほかなりませんの!  わっ、鼻になんか入った! なんなのよっ! ううぇ! 「もうそろそろだから~」 「あ、はいっ!」  だからもう、いきなりふり向かないでくださいっていうのっ!   ……見られたかしら? 鼻の穴広げて、異物を排除してる顔。    だって大学生にもなって、彼氏ひとり、好きな人ひとりいないなんて寂しすぎるわよ。それじゃあ最高学府に入った意味ないじゃない。  そんなとき、サークル勧誘の受付にいい男が座ってるのを発見すれば、健全な女子だったら一も二もなく飛びつくのはあたり前。活動内容なんて二の次、三の次。  でも、問題はそれからなのよ。  同じサークルにいても、接点を大きく持たないことには、恋に落ちるチャンスはやってこないもの。
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