こいでも、恋でも

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 大学に入るまでお芝居なんてやったことないし、観たっていっても、学校の[芸術に触れる会]みたいなときだけ。そこでもほとんど眠ってたあたしに、相手役で接点を持つなんて到底無理なお話。  なので、ここは裏方的な部分で攻めてくしかないわけだ。  ちょうど先輩は小道具係のチーフだったから、あたしもその係を即希望。  この分野なら、技術的にあたしにもできそうだし。だって、もの買ったり借りたりすればいいだけのことでしょ?   でも、そんな考えを持った同じ新入生女子は結構いた。しかもみんな、目的はあたしとまったく一緒だったんじゃないかしら?―――まあ、ほどほど自分に自信のある女子であれば当然かもね。  だから、他の小道具係の子たちが今日の買出し担当を辞退するよう、相当使っちゃったわよ、裏金を。おかげで、当分極貧生活を余儀なくされた……。わっ、右ふくらはぎ、つりそう!  先輩。だいたいなんでこの夏のクソ暑い日に、自転車でいこうなんていう気違い沙汰な提案なさったんですか?   先輩が自転車好きなのは知ってます。そんなの乗ってるぐらいですから。  でもあたしたち、演劇サークルですよね? 文化系サークルですよね? 体育会系サークルじゃ間違ってもありませんよね!?  買い物めぐりするにしても、電車移動だったらこんなには疲れないし、自転車とは比べものにならないぐらい涼しいです。クーラーという素敵な文明の利器が搭載されてますから。  そもそも拒否なんてできないんですよ、こっちは。後輩なんですから。  第一、恋心抱いてる相手にそんなこといってごらんなさい。 「ああ、この女、根性ないな。俺には合わないや」  って思われたら、今までの苦労や裏金が水の泡じゃないですか!  普段まともにおしゃべりする機会も皆無に等しいから、まずははじめの一手というつもりで、あたし、今日のこのチャンスを手に入れたんですよ。それなのに、まだほとんど会話らしい会話交わしてないじゃないですか! 先輩、小道具探しに夢中で!  はっきりいって今日は、小道具探しという名目のデートの日なんです、あたしにとっては!
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