こいでも、恋でも

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     *  視界が開けた―――。  緑に囲まれた広々とした境内の涼しさは、参道以上の風通しのよさもさることながら、あたしたち以外の人影が見あたらない―――そんな視覚的効果からでもあったのではないか。  正面奥に厳かにたたずむ本堂と山門を結ぶ直線上には、大きな香炉が鎮座しており、お香の香りとともに参拝者を迎える。先輩は煙のあがっていないその香炉を通りすぎ、本堂へと進んでいく。歩幅が彼の約三分の二ほどのあたしは、そのあとを早足でついていった。  散歩なんですから、もっとゆっくり歩いてくださらないかしら? 足がまだ若干ガクガクなんですの。 「知ってるか?」  無事、賽銭箱の前にあたしが到着すると、本堂の奥を見つめたままの先輩はいった。 「はい?」 「ここお参りすると、どんなご利益があるか」  知るわけないです。今日はじめてきたところだし、いきなりのことだったんで、ネットでも調べてませんし。 「家内安全とか……無病息災ですか?」  我ながらありきたりすぎる回答で情けない。でもそれぐらいしか思いつきません。―――あ、安産っていうのもあるか。 「それもあるけど」  そうですよね。これが答えだったら、たいして設問にする意味ないですよね。 「縁結び」 「え? 縁結び?」  へ~、なんて素敵な言葉! 今日のあたしのテーマにぴったり!   でも……、 「神社ならよく聞きますけど、お寺でも縁結びなんてあるんですか?」 「うん」  先輩はこっちに向き直り、 「なんでも深大寺って、奈良時代に満功(まんくう)さんていう人が開いたらしいんだ。で、その名称は、水の神様“深沙(じんじゃ)大王”の名前に由来してるんだって」 「はあ」  見つめられて、途端にあたしの視線はさがった。―――やっぱり無防備な顔面は、非常に心もとない。 「その満功さんのお父さんが福満(ふくまん)さんていって、若いころ、ある豪族の娘と恋に落ちたんだって」 「へ~」 「でも娘の両親が、そのつき合いに反対しちゃってね」 「よくあるパターンですね」 「娘を湖の中にある小島に隔離しちゃったんだって」 「それはあまりないパターンですね」 「うん。まあ……今はね」  あたし、なにいってんだろ!? おとぎ話なのに!
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