2話 美少女アドバイザー・FUKI

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2話 美少女アドバイザー・FUKI

――ヤスハラミクコサマ アナタノウンメイモシラセタイ……  美久子はもう一度、心の中でその件名を反芻する。 ――安原美久子様 あなたの運命も知らせ隊……  安原美久子とは、自分の名前であり、しかもフルネームで明記されている。これは自分宛のメールであることは、間違いない。  だが、差出人である、”美少女アドバイザー・FUKI”なる者には、美久子はついぞ心当たりなどない。そもそも、自分で”美少女”などと名乗るような女(ネット上で女と名乗った者が本当に女かどうかはまだ分からないが)は、美久子の一番嫌いなタイプだ。  この時の美久子は、湧き上がってくる不審さよりも、湧き上がってくる胸のムカつきの方が勝っていた。どこの企業の迷惑メールだかなんだか知らないが、こんなふざけた件名&ふざけた名前で送ってきやがって……と。 「ふざけんなよ……ったく。どいつもこいつも、イラつかせやがって……」  再び舌打ちした美久子は、マウスを動かす。かなり年季の入ったそのマウス(完全に壊れてしまうまで、うちの両親は新品を買ってはくれないだろう)の動きは、やはり鈍いものであった。    カチッ……と音とともに、この部屋の中の唯一、光を放つものであるディスプレイにメール本文が映し出された。 ※※※  安原美久子 様  いつもお世話になっております。  「あなたの運命も知らせ隊」所属のアドバイザーのFUKIと申します。  おめでとうございます!  突然ではございますが、安原美久子様も本日よりごく近い未来の運命の分岐点を知ることができる権利に当選いたしました。  さらに……  当選したうえ、安原美久子様はこの第1回目のメールに気づきました。  中には、「あなたの運命も知らせ隊」からのメールに気づかず、そのままメールが消失してしまうお客様も多数いらっしゃるというのに……今宵の安原美久子様は、ダブルコングラチュレーション! とも言えることですwww  気づいてしまったことが勝ちか、負けか。  今後の人生に生かせるか、生かせないかは、安原美久子様次第でございます。  参考までに、今までに「あなたの運命も知らせ隊」を利用しました方々の感謝のコメントをご紹介いたします。 「すごいです! おかげさまで、なんとか人生最悪の危機を回避できました!」(K県・30代・男性) 「私を選んでくれて、本当にありがとうございます。なんと、お礼を言っていいのやら」(Y県・20代・女性) 「本当にアドバイザーの方は、私の前に遣わされた天使です!」(N県・20代・男性)  このコメントを呼んだ安原美久子様もきっと、胡散臭いって思ってるとは思いますwww  でも、最初は胡散臭くて難色を示していても、他人の――しかも複数人のポジティブな意見を目にして、瞬時に流され……いえ、考えが変わる方が大勢いらっしゃるのです。  人はより人のいるところに集まり、人はより人の多い意見に同調していくとのいうのは、社会の仕組みかもしれません。そして、悪行はすぐに広まるけど、善行はなかなか広まらないのと同じようにね。  さて、いろいろと長くなりましたが、私、アドバイザーFUKIは安原美久子様にもお伝えしたいメッセージがあり、本日こうしてメールをお送りさせていただきました。  詳しくは以下のURLをクリックくださいませ。  短い間ではございますが、直接アドバイスさせていただきます。  http://sonna-url-aruwakenaiyo/ya-i!-damasaretanaa!wwwww  注意事項といたしましては、受信から約49分以内に、本メールならびに安原美久子様専用動画は、自動的に消失という形を取らせていただくことになっております。  消失ということは、メールの受信フォルダにはもちろん残りませんし、なお動画を再生したとしてもインターネットの閲覧履歴にも一切残りません。  その点に関しましては、私たちは手抜かりはございません。  あ、それとですね。  このメールでございますが、これからも深夜0時に送らせていただくこと(一応は不定期配信)となっております。  仮に一度でも、「あなたの運命も知らせ隊」からのメールに動画URL未再生のまま、制限時間の49分が過ぎてしまった場合は、”今度のメール配信は望まない”と判断させていただき、二度とメールはお送りいたしませんので、ご了承くださいますようお願い申し上げます。 「あなたの運命も知らせ隊」  美少女アドバイザー・FUKI ※※※ 「…………は?」  なかなかに長いメール本文を目で全て追い終わった美久子の口から出た第一声。  この”自称”・美少女アドバイザー・FUKIからのメールは一見ビジネスライクと見せかけておいて、妙にフレンドリーというか失礼な要素(なぜwwwを使う?)もふんだんに含んでいる。  ”安原美久子様”、”安原美久子様”と、美久子の名前をメール本文中、何度もフルネームで記載し、美久子を持ち上げているかのように見せかけておいて、その実、主導権は全て「あなたの運命も知らせ隊」というふざけた名前の団体にあることを暗に匂わせてもいる。 ――絶対、怪しい。イタズラとしか思えない。十中八九、イタズラだ。でも、誰が? 私、このパソコンのメールアドレスはクラスの子には誰一人にだって、教えていない。あのムカつくヤリ〇ン克子とだって、ガラケーでやり取りしているわけだし……たまに気になるお店のメルマガに登録しているぐらいで……  美久子はもう一度、メール本文をジイイッと読み込んだ。  胃のあたりに何か嫌なものが立ち上ってくる。  不気味。  不穏。  不吉。  窓の外で、秋の風が窓ガラスをこする音すら、それらをより際立たせる役割を果たしているようであった。  まるで「世にも奇妙な〇〇」に憧れた(?)、売れないマイナーな書き手が夜な夜な、ストレス解消のためにお菓子をムシャムシャ齧りながらパソコンに向かい、甘いカフェオレをちびちび飲み、ダラダラと書いている売れない物語に出てくるような設定とテイストのこのメール本文……  美久子は、無機質な壁時計にチラリと目をやった。  今は、0時34分。  つまりは、このメールが”消失”するまでにはあと15分ほどあるということだ。  そう、美久子がメールの消失するまでの時間について考えてしまうことは、美久子はこのメールに不気味さを抱きながらも、興味の方もムクムクと湧き上がってきているということだ。  そうこうしているうちに、止まることのない時を刻む壁時計は、0時42分を示していた。  あと7分。  あと7分の間、このメールをスルーできるか、いや…… 「あー、もうウザすぎ……どいつもこいつも」  全身に広がっている苛立ちは、もれなく口から洩れる。  だが、その苛立ちは、美久子の中で湧き上がるこのメールへの興味――「あなたの運命も知らせ隊」や美少女アドバイザー・FUKIへの興味(特にこのFUKIとやらは本当に美少女なのか? 随分、自己評価が高いみたいだが、こういう女に限ってたいしたことないってのが相場だ。十人並に少し毛が生えた程度……つまりは、大國克子レベル)が不気味さを超えたことであることも意味していた。  たかがメールだ。  実際に変質者や異常者を前にしているわけじゃない。私が今いるのは、自宅の自分の部屋。安全地帯だ、と美久子は自分に言い聞かせる。  だが、美久子は用心のため、メールに直接リンクされているURLをクリックはしなかった。  URLをコピーペーストし、先ほど閉じたばかりのインターネットエクスプローラーのアドレスバーに貼り付けたのだ。   このパソコンには一応、両親がウィルス対策用のソフトを入れてくれている。どんだけスマホを持たせて欲しいと頼んでも持たせてはくれないのだ。だから、両親にはこれくらいのことはしてもらわなきゃ、困る。  カチッ!  マウスのクリック音とともに、画面はすぐに切り替わる。  美久子の眼前に広がる電子の海にて現れたのは、「ウイルスに感染しました」ことを示す無慈悲な表示でもなければ、悪意に満ち溢れた暇人が見つけ出したであろう狂気のグロ画像でもなければ、一見普通の動画サイトのようであった。  ただ……  中央の動画以外は真っ黒だ。そして、真っ白のリボンがかけられている。  まるでお葬式の際に使う遺影のようなデザインのサイト。  あなたの運命も知らせ隊などと、上から目線で人の運命に関わってこようとしているにしては、悪趣味で不安”しか”感じさせないことをコンセプトとしたかのようなデザイン。  いや、それよりも……  動画の中では、少女が美久子に向かって微笑んでいた。  そう、本当に美久子とそう年が変わらないぐらいの少女。  そして、パッと見、容姿に関しては、本当に”美少女”と形容しても違和感がないほどの少女。  違和感がないということは、同性に関してはやや厳しい審美眼を持っている美久子も”美少女”と認めざる得ない容姿ということだ。  この美少女は、大人っぽい系統の美人ではなく、全身より瑞々しい少女らしさをふんだんに漂わせている可愛いアイドル系の正統派だ。  毛穴など無縁であるに違いないハリのある白い肌に、キューティクルが天使の輪を見事に描いている肩までの黒髪ストレート。メガネはかけていないが、いかにも某掲示板で言う”処女厨”受けしそうな外見であった。 ――この女がFUKIってワケ? どう見ても未成年というか、私と同じ年ぐらいにしか、見えないんだけど……マイナーな芸能事務所から引っ張ってきた売れないタレントよね、きっと……  瞳をキラッキラに輝かせ、ニッコリとほほ笑んだFUKIなる美少女。  計算されつくした営業用スマイルを見せたFUKIはゆっくりと、ディスプレイ越しでもそのツヤッツヤに光っていることが分かるピンクの唇を開き始めた。   「クリックいただき、誠にありがとうございます! 安原美久子様! 私は、安原美久子様の専用のアドバイザー”でもあります”FUKIと申します!」  甘ったるいアニメ声。どこか耳がキンキンしてくるようなアニメ声。  まさか、この女は声優の卵か何か――いや、単に未成年に見えるだけで現役の声優なのかもしれない? と美久子が思うほどに。  そのうえ、”FUKIと申します!”と、目だけはこちらへ向けたままFUKIが軽く会釈をすると同時に、ピコピコリン! と音が鳴り、画面下部には彼女の名前を紹介する「FUKI」というテロップまでが表示されたのだ。  そのテロップも、美久子の期待(?)を裏切らず、ショッキングピンクの丸文字であった。最初の挨拶をするにしては、もっと真面目な字体のテロップもあったろうに、空気の読めないテロップだ。  先ほどのメールの本文といい、この軽さは一体何なのか?  どいつも、こいつも、チャラチャラしやがって……!! 「ケッ……この女、いかにも量産型アイドルもどきって感じ。十把一絡げの女じゃん。ンでもって、末路はAV? こいつが同じクラスにいたとしても、絶対友達になれないタイプだわ」  この美久子の声は、”普通なら”聞こえるはずがなかった。   ディスプレイの向こうにいる者に、口を出しても何も聞こえやしないのが普通だ。  だが――  動画の中のアドバイザー嬢・FUKIのナチュラルに見えるよう計算されつくして整えられた眉がピクリと動き、小鼻がわずかに膨らんだ。 「!?!」  まさか、聞こえている?  いや、単なる偶然?!  このノートパソコンのウェブカメラには、美久子はちゃんと猫のシールを貼るなどして、不用意な流出は一応、防いではいる。  それなのに、この動画の少女には――録画されているものではなく、リアルタイムでの中継(?)となっている動画の中のFUKIには自分の言葉が聞こえているとしか思えない現象が、目の前で展開されているのだ。  「……十把一絡げの女の中にも階層ってモンがあるんですけどね」  愛らしい鼻をフフンと鳴らし、FUKIがボソッと呟いた。  さすがのプロ意識か、FUKIはそのうっとおしいほどに輝くキラキラの瞳に怒りは宿らせているものの、顔全体の営業用スマイルは保ったままであった。 ――やっぱり聞こえている!! 聞こえている!  眼前に突き付けられた奇怪な現象に、美久子は叫びだしそうだった。  だが、カラカラに乾いた喉からは叫び声すらでなかった。  自分の部屋なのに、異次元に迷い込んだような戦慄が美久子の背筋を走っていく。  ディスプレイ越しに、FUKIが手を伸ばしてきて、自分の首をギュウウウウウと締め上げるのではないかという恐怖。それか、美少女FUKIがゲロゲロのモンスターに変身して牙をむくのではないかという恐怖。  逃げなけば……早く、逃げなければ……!  しかし、美久子の体は”動かなかった”。声帯すら震えることを許されていないかのようであった。  まるで何らかの力で、動かなくされたように……まるで、壊れてしまって時を進めることのない、時計の針のように美久子の体は自由を奪われた。  しかし、不思議なことに恐怖の中にありつつも、美久子は先ほどのFUKIの言葉の裏に秘められていた悪意に、胸をガリッとひっかかれてもいた。  ひっかかれた傷口より、FUKIの言葉が蘇ってくる。  ”……十把一絡げの女の中にも階層ってモンがあるんですけどね”  つまりは、”確かに私はアイドルみたいに可愛い女の子たちの中では、十把一絡げの女かもしれませんけど……あなたの学校に私ほど可愛い女の子はいますでしょうか? いたとしても、せいぜい1人か2人程度でしょ”という悪意。自分の容貌を鼻にかけた悪意だ。  仮に、このFUKIが、美久子の学校に転入したとしたなら、美貌部門ではぶっちぎりの一位であるだろう。顔立ちのみならず、この圧倒的なアイドル性には、誰も勝てやしない。学内においては、結構可愛いとの評価でいい気になっている克子ですら絶対に霞む。それどころか、あの『ナルナルナァール♪』にKENくんと一緒に映っている読者モデルの女子大生たちだって、霞んでしまうだろう。    抜きん出て可愛いというだけで、スクールカーストの上位に、数段飛ばしで駆けあがることができる。  そして、美久子は思う。 ――この女は、”こんな仕事”をしているんだ。目立ってなんぼの芸能の仕事を……周りの顔色をおどおどを窺って卑屈になったり、虐められるようなタマじゃないだろう。体は憎たらしいぐらい華奢で男が守ってやりたくなるような外見をしているけど、メンタルは極太に違いないって……  ダイエットなど考えたこともないようなスレンダーボディのFUKI。  しかし、ピッチピチのスーツっぽい衣装に身を包んだ華奢な彼女の両の乳房は、今にもはちきれそうであった。  顔にあわず巨乳であり、美久子のみならず”克子と比べても”圧倒的に巨乳である。  美久子は体育の着替えの時間に、克子の胸もとをチラッとチェックしていたことがある。オフホワイトの花柄レースのブラジャーに包まれた克子の胸はそう大きくはなく、せいぜいBカップぐらいであったろう。もちろん、美久子自身の胸も同程度であった。  胸なんて普通程度が一番いい。年取って垂れる心配もないし。   ――この女は、絶対に入れ乳だ。何もかも可愛く、男好きがするようにいろいろ弄って必死で作り込んだとしか思えない。仮に、入れ乳じゃなくて天然ものだったとしたら、絶対、乳輪だって大きいはずだ。それに乳首だって、黒くてブツブツした感じかもしれない……  美少女アドバイザー・FUKIは、美久子の嫌いな大國克子の上位互換版のような容姿と喋り方の女であった。  克子より可愛くて、克子より巨乳で、克子よりぶりっ子の女。  よって、恐怖だけでなく、嫌悪感も克子に感じているものよりも、みるみるうちに大きくなっていく……  そして、どういう思考回路なのか、美久子は見たこともないFUKIの胸に彼女のウィークポイントを勝手にでっち上げていた。    沈黙。  重い沈黙。  しょっぱなから、互いに”こいつとは気が合わないわ”という沈黙。 「んと……そろそろ、本題に入りましょうか?」  FUKIが芝居がかった軽い咳払いをした。  仮にも美久子は客(?)なのに、謝ったら負けだとFUKIは思っているのだろう。だから、美久子も謝らない。 「この動画の再生時間は、通常4分9秒って定められています。ですから、残り2分弱です。ちゃんとしないと、上の人に怒られますからね」  他の動画サイトと同じく、動画下部に再生時間の表示があることに美久子は今さらながら気づいた。しかし”上の人”というのは、どういうことか分からなかったし、聞きたくとも今は口がきけなくなっている。 「安原美久子様、言い忘れておりましたけど、今、少し”処置”を取らせていただいております。今、安原美久子様の体は動かず、瞳は私のキュートな姿に釘付けとなっているはずです。自由になるのは、その心のみといったところでしょうか? でも、そうしておかないと”私たち”のガイダンスをきちんと聞いていただけないと思いまして……今までのお客様の中では失禁&脱糞したり、驚いて窓から飛び降りちゃった方もいましたからね」  愛らしい笑顔を崩すことなく、FUKIは続けた。  サラリと転落死を遂げたらしい今までの客のことを織り交ぜながら…… 「さて、手短に話しますね。安原美久子様、あなたは今、運命の分岐点の少し手前にまで来ているのです。さてさて、”運命の分岐点”……それは一体、何なのでしょうか?」  FUKIは、ピンクの唇の前に自身の人差し指を持ってきて、”ふふ、当・て・て・み・て”と、言わんげな”完全に訓練された”仕草を見せた。完全に使う相手を間違えている色目をこいつは使っている。  美久子の心に広がる自身への嫌悪をさらに広げて、しつこくまんべんなく塗り広げることを目的としているかのようなFUKI。 「運命の分岐点……なんて、ふわっとした感じじゃ分かりませんよね。あまりにも突然であり曖昧ですから、”本件に関しましては”安原美久子様の頭が悪いというわけではないので、決して落ち込まないでくださいませ」 ――誰が落ち込むか! もったいぶった言い方しやがって……! 「あら、怖いお顔www まあ、それはさておき……私たちがお伝えできるのは運命の分岐点とその途中にある数点のターニングポイントと、分岐点を――止めることのできない時とともに、その分岐点を通過した後の二通りの結末だけなのです。何もかも手取り足取りサポートできるわけじゃありません。私たちは”あなたの運命も知らせたい”という伝達をメイン事業としているわけですから……」  止めることのできない時とともに人生は流れていく……  流れる時の中にいある運命の分岐点と、途中にある数点のターニングポイント。  いや、何より運命の分岐点を通過した後の結末は二通り。  そう、たった二通りしかないということだ。  それは、まさか……?  美久子の思考の整理が進むにつれ、体の自由は戻ってきたようであった。  頭が冷えていく代わりに、体はあたたかくなり、自由を取り戻すというような妙な感覚だ。  しかし、冷えていく頭の中は、まるで氷がガシャガシャと音を立ててシャッフルされているかのごときパニック状態であった。  美久子の目尻には、涙が滲み始めていた。  いや、駄目だ。こんな克子みたいな……いや、(出会ったばかりであるけど)克子以上にクソであることは間違いない、こんな女の前で泣きたくなどはない。涙など流したくない。 「あ……っと、そんなに涙目にならないでくださいよ。安原美久子様、もしかして、ご自分の運命の分岐点が”生か死か”ってことを想像しちゃいました? ……まあ、それは”ある意味、間違ってはいない解釈”ですけど、安原美久子様の場合は違いますねえ。安原美久子様はこれからも……いわゆる人並み程度には生き続けます。だから、”そのことに関しては”ご安心くださいませ」  何がおかしいのか、FUKIはププッと口元を押さえて、美久子に告げる。  涙目になっていることは、FUKIにはしっかりばれていた。こんな”ネットを介した”現代風の妖怪というか、魑魅魍魎のごとき団体(?)につかまってしまい、生か死かをどちらかに強引に背中を押され進まされることになってしまったのでは、という脳内想像までもばれていた。  しかし、FUKIは言った。  自分(美久子)の場合は違うと……  人並み程度には生きることができると…… 「あ、安原美久子様。そろそろ時間です。本来でしたら、このメールは不定期配信なのですけど、今の安原美久子様の顔は笑え……いえ、お気の毒になってきましたので、特別なアフターフォローとして、明日の同じ時間にもメールをお送りすることを予告いたします。上の人たちには内緒ですよ♪ まあ、上の人たちとコンタクトをとろうと思っても取れないとは思いますけどwww ちなみに、親切な私からの二回目のメールを開くも開かないも、安原美久子様の自由ではございます。今後の人生に生かせるか、生かせないかは、安原美久子様次第でございます。そして、さらに大サービスなのですが……」  美久子の滲んだ瞳の中で、FUKIの姿がキュルンと一瞬、光ったように思えた。 「……安原美久子様、あなたと同じクラスにいるクラスメイトたちに、少しの間、目を光らせてみてください。じっくりと”彼女たち”を見てください。私も”今回に関しては初めてのパターン”ので、とっても戸惑ってもいるのです。安原美久子様のこれからの行動の選択次第ではあるのですが、クラスメイトの中にあなたを”命ある限り続く生き地獄”へといざなう……というか、地獄の入り口まで連れてきて、自分は気ままに空へと飛び立つかもしれない人物がいるのですよ」
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