やまない雨

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ザァザァと音が聞こえる。 雨の音だ。ずっとやまない雨の音。 あふれ続けて止まらない雫の音。 真っ暗だった視界を開けて辺りを見回す。 ━━━気が付けば、私はリビングの真ん中に立っていた。 あれ?私、何で家にいるんだろう…。 知らない間に帰ってきたのかな。 ガチャリと玄関のドアが開いて誰かが帰ってきた。 慌てて玄関に向かうとそこにいたのはお兄ちゃんだった。お兄ちゃんは十三個も上で、今は二十六歳。四年前、両親が事故で亡くなってから、ずっと一人で私を育ててくれている。 「…麗音(れいん)?」 お兄ちゃんが驚いた顔で私を見る。私はお兄ちゃんの顔を見た途端泣きたい衝動に駆られて、瞳に雫を溜めながらお兄ちゃんに飛び付いた。 「お兄ちゃん! よかった、帰って来ないから心配してたんだよ。 あれ?でも、何でお兄ちゃんがここに?だって、私もお兄ちゃんも病院にいたはずじゃ……」 そうだ……。二週間前、台風のせいで凄い大雨が降って、川が氾濫して。確かそれで…。それで……? 記憶があやふやで思い出せない。 「病院にいて、それで…………」 「麗音…」 お兄ちゃんは私の名前を呼んでその場に片膝をつく。私を見上げる形になって、私はお兄ちゃんを見下ろした。あの大好きな瞳に私が映るのに、お兄ちゃんの瞳はぐらぐらと揺れている。 「───………」 引き結んでいた唇を開いて、また閉じる。お兄ちゃんにしては小さく開いたその唇は震えていて、はくりと空気が漏れただけで何も言わない。中途半端に開いた唇から声が紡がれたのはリビングに掛けた時計の秒針が一周する頃だった。 「………よく聞いて…。 俺はもう…死んでるんだ……」 「──!!?」 死んだと聞かされて、あの日の記憶が切れ切れに思い出される。逃げ惑う人々、泣き叫ぶ悲鳴、飛び交う恐怖と怒号。でも肝心のお兄ちゃんとの会話が、内容が、あの日どうしたのか思い出せない。 ……死んだ?お兄ちゃんが? 分からない。思い出せない。 「……なら、何で家にいるの……?」 「お前が心配で来たんだよ」 力なくお兄ちゃんは笑い、立ち上がって言った。 「腹減っただろ。何食いたい?」 そういえば。思い出したら、急にお腹がすいてきた。 「ナポリタン食べたい!!」 そうリクエストすると、お兄ちゃんは笑って「待ってろ」と言った。
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