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「ほら」
二十分後、私の目の前にできたてホヤホヤのナポリタンが置かれる。
香ばしい野菜にツヤツヤと輝くケッチャップ。
「おいしそう!!いただきます!!」
手を合わせて口いっぱいに頬張る。
やっぱりお兄ちゃんの作ったナポリタンが一番おいしい!
「よく噛まないと喉に詰まるぞ」
呆れたように嬉しそうにお兄ちゃんが言う。
「だって、おいしいんだもん!」
「誰にも取られねぇんだからゆっくり食え。
もう。ほら、口の周りについてるぞ」
「お兄ちゃんは食べないの?」
「ああ、そうだな。
癖で二人分作っちまったから、食うか」
お兄ちゃんはそう言って新しく取り出した自分の皿に盛り付ける。
私の目の前に座ってナポリタンを口に運んだ。
「どう?」
私が作った訳でもないし、味見で知っていることは分かっていたが、そう尋ねる。毎回、ご飯の時にしているやり取りだ。
「うん。うまい」
いつものやり取りと同じくお兄ちゃんはそう答えた。
「幽霊って、物も掴めて飯も食えるんだな。初めて知った」
「味も感じるんだね」
「みてぇだな。
…なぁ麗音。明日、どこ行きたい?」
「へ?明日?
明日は学校だよ」
「お前、覚えてないのか?
この前の大雨の影響で学校水浸しだから、しばらく休みになるって言ってただろ?」
「あれ、そうだったっけ?
じゃあ、『幸福のパンケーキ』っていうお店行きたい!
生地が分厚いのにフアフアで柔らかくておいしいんだって!人気のお店なんだけど、1人では行けないから」
私は極度の人見知りで、コンビニも外食も図書館もどこに行くにも必ず誰かと一緒だった。友達も1人しかいない。
「いいけど、問題が1つあるぞ。
家族だからなのかお前は俺のことが視えてるけど、周りには視えないんだ。一緒にいても1人でいるようにしか見えないし、会話も独り言に聞こえる。
それでもいいのか?」
持ちかけられた難題に首を横に振る。
「え、絶対嫌。
ん〜っとね……あ!じゃあ散歩行きたい!
それなら1人で歩いてても不思議じゃないし、イヤホンしながら歩けば電話だと勘違いしてくれるでしょ?」
我ながら名案!
どうだと自慢するようにフフンと鼻を鳴らしてイキイキと答える。
お兄ちゃんはおかしそうに笑って「いいよ」と言った。
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