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「急に、降ってきたな」
一一上手く声が出ない。
心臓の鼓動が早くなる。うるさい雨の音のおかげで静寂とは程遠いのに、自分の胸の音しか聞こえない。
急すぎる土砂降りの雨によって、思わぬ状況になった。
「ほんと急だね」
空を見上げて困ったように笑う葉月。ほとんど話したことのない陽向に突然話しかけられても、まるで壁を感じさせないように言葉を返す。
陽向はそんな葉月をずっと見ていた。だから思った。これは神様が与えてくれたチャンスだと。
明日提出の課題を教室に忘れて取りに帰った葉月。そして、部活仲間に置いていかれた陽向。
日が長くなってきたからかまだ空は暗くない。しかし、もう学校には人がほとんどいないせいか、やけに寂しく感じる。
昇降口で二人立ち尽くす。
「横田君は部活?」
「え、あ、あ、うんそう」
陽向がグルグルと話題を考えていた時、葉月は陽向の持っていたシューズを見て首を傾げた。その柔らかい笑顔は、気まずさとか沈黙とか、何もかもを感じていないよう。
「たしかバスケ部だったよね。柊たちは?」
「あ、えっと、あいつら俺のこと置いて先帰りやがって」
「あはは、それはひどいね」
「ほんと、ひどすぎるよな」
一一会話、できてるかな。
上手く笑えてるかな。湿度は高いはずなのにやけに喉が渇く。何度も唾を飲み込んでは言葉が詰まる。
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