運び屋

1/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「急に、降ってきたな」 一一上手く声が出ない。 心臓の鼓動が早くなる。うるさい雨の音のおかげで静寂とは程遠いのに、自分の胸の音しか聞こえない。 急すぎる土砂降りの雨によって、思わぬ状況になった。 「ほんと急だね」 空を見上げて困ったように笑う葉月(はづき)。ほとんど話したことのない陽向(ひなた)に突然話しかけられても、まるで壁を感じさせないように言葉を返す。 陽向はそんな葉月をずっと見ていた。だから思った。これは神様が与えてくれたチャンスだと。 明日提出の課題を教室に忘れて取りに帰った葉月。そして、部活仲間に置いていかれた陽向。 日が長くなってきたからかまだ空は暗くない。しかし、もう学校には人がほとんどいないせいか、やけに寂しく感じる。 昇降口で二人立ち尽くす。 「横田(よこた)君は部活?」 「え、あ、あ、うんそう」 陽向がグルグルと話題を考えていた時、葉月は陽向の持っていたシューズを見て首を傾げた。その柔らかい笑顔は、気まずさとか沈黙とか、何もかもを感じていないよう。 「たしかバスケ部だったよね。(しゅう)たちは?」 「あ、えっと、あいつら俺のこと置いて先帰りやがって」 「あはは、それはひどいね」 「ほんと、ひどすぎるよな」 一一会話、できてるかな。 上手く笑えてるかな。湿度は高いはずなのにやけに喉が渇く。何度も唾を飲み込んでは言葉が詰まる。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!