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「その時は意外と近いかもしれませんよっ」
突如聞こえた高音に、足が凍る。
「・・・えっ・・・誰・・・」
後輩の悪戯か・・・?恐る恐る周囲を見渡す。
モナ・リザのレプリカ・・・製作途中の油絵・・・後ろ向きのヴィーナス像・・・
「こんばんは 宮下雅弘様」
ヴィーナスの首がグルンっと動き、こちらに笑いかける。
「うわぁぁぁぁぁっ!!!」
思わず腰を抜かして倒れそうになると、誰かに体を支えられるように動きが止まった。
「驚かせてしまい申し訳ございませんでした。ほんのパフォーマンスのつもりだったのですが・・・」
「・・・仮面の・・・男・・・」
「細々活動していたのですが、いやー 私も随分有名になってしまいました。弱りましたねーまぁおかげで広告代払わなくて済むのですが!」
男はクスクスと笑いながら俺を起こした。いつの間にかヴィーナス像は元に戻っている。
「あ・・・あの・・・」
「あぁご挨拶が遅れました。私、お客様のお品物を売り買いするお手伝いをさせていただいておりまして」
「・・・はぁ・・・」
なぜ俺の名前を知っているのかも奇妙だったし、第一 トレンチコートに白い顔型の仮面という何とも不気味なビジュアル・・・レトロな映画に登場する殺人鬼を思い出させる。
「何かお求めの商品はございますか?もちろん他の店舗で取り扱うデザインスケッチや絵の具も、学割でご提供できますが」
「っ・・・」
どこまで俺のことを知っているのだろう・・・良く分からないが、コイツの側にいると面倒なことに巻き込まれそうな気がする。
「あ・・・いや 大丈夫です・・・」
「本当に?」
「はいっ・・・」
「どんなものでも宜しいのですよ?」
「いや でも大丈夫ですっ・・・」
「気になる女性を探しているんでしょう?」
コイツ・・・本当に何なんだ・・・!!?
俺が当惑した表情で見つめると、仮面男はヴィーナスを撫でながら笑う。
「皆さん同じような顔をなさるんですよ~♡こんな事あるわけないって。でもね、私も商売ですから、お客様の情報をある程度頭に入れた上でご対応しないと失礼に当たります。・・・いえご安心を。個人情報は悪用いたしませんから。」
「・・・彼女 知ってるんですか?」
「えぇ まぁ・・・ただしそれを私の口から申し上げることはできません・・・。それこそ情報漏えいですから。」
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