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ほんの一瞬だったと思う。
目を開けると、そこは自分の部屋ではなかった。硬い床の上に倒れているようだ。
「・・・どこだ・・・ここ・・・」
どこかから冷たい風が吹き、右側には酷似したドアがいくつも設置されている。
「・・・アパート・・・?」
自分が住んでいるアパートではない。どこか別の場所だ。
立ち上がろうと足に力を入れると、ズシッと鈍い痛みに襲われる。
「いっ!!・・て・・・」
俺は自分の足を見ようとして驚愕した。
黒い毛に覆われ、片方から血が出ている。
おまけに手のひらには、プニプニとした肉球がついていた。
「・・・なっ・・・何だよこれっっっ・・・!!?!?」
俺は、明らかに人間ではない何かに変身している。急いで首輪を外そうとするが、あいにくこの姿では外れない。
やはり つけるべきではなかった・・・一体これからどうしろというのか・・・
様々な後悔が頭を巡る。
「んっ??なんやこれ?」
どこかで聞いたことがある声に、ハッとする。部屋鍵をぶら下げた篤が、こちらをまじまじと見つめているのだ。
もしかして・・・ここ・・・
「これ・・・猫か?」
『篤っ!!助けてくれっ!!』
「ニャ―」
必死で助けを求めるが、猫の鳴き声に変換されてしまう。
「野良?あ、でも首輪ついとる・・・えっ、お前ケガしてるん?!どないしよ・・・」
ワタワタと慌てながら、周囲を見渡している。
「この時間やと迷惑やろうし・・・しゃーない。」
篤の両手が俺の体を優しく掴み、持ち上げる。
「ニャ―!!ニャ―!!」
「わわっ!ちょ、大人しくしてーな猫ちゃん・・・(汗)」
何が起こっているのか分からず暴れる俺は、篤の部屋に連れ込まれた。
「・・・あ、すまん姉ちゃん・・・部屋の前で猫が怪我しとって・・・前足。小さいキズやけど・・・え、ちゃんと手洗ったって。
首輪付いとるから多分迷子やと思う。住所?どこにも書いとらん・・・。」
切羽詰まりながら、篤は姉に電話をしていた。
「色と大きさ?・・・全身真っ黒で・・・多分大人や。前足だけで他はキズとかない。
・・・ガーゼ?あぁ ある。・・・・・・分かった、やってみるわ・・・。」
電話を切ると、篤は洗面所へ走っていった。
「ごめんな・・・ちょっと辛抱やで・・・」
篤は俺の足を少し上げると、濡れたタオルを当て始める。
『いって・・・しみる・・・』
「ミ・・・ミィ・・・」
「ひりひりするな・・・もうちょっとや・・・」
篤は子どもに語りかけるように呟きながら、ガーゼを巻いていった。
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