サツ(擦)

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サツ(擦)

()り切れた紐が風に揺れていた 紐の上部は太い枝に結わえられ 枝には紐が(こす)れた跡がある 重なり合う枝の隙間から 木漏れ日が優しく降りてくる 枝の先には落ち着いた緑が サワサワと音を立て ()れ合いながら笑う 樹の皮の香りと共に 得も言われぬ臭がする したを向きたく無くて そのまま立ち去ることにした なぜか音を立てたくなくて そっと振り返り 来た道を辿る 私は()れ違っただけなのだ 何も無かったことにして 時間の止まったような 空間を置き去りに 現実の世界へ戻ろう 心に擦過傷(さっかしょう)のような傷を負い ジュクジュクとした痛みに 眉をしかめて足を速める もう死にたいなんて思うまい
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