18人が本棚に入れています
本棚に追加
手作りの価値
娘が学校で使う袋物を
夜遅くに縫う事になった
一週間も前から分かって筈なのに
夕食を食べ終わってから言い出した
夫は娘を叱っていたけれど
娘の気持ちも何となくだが解る
村に毛が生えたような大きさの町では
袋物を売っている店は少なく
売られている種類も少ない
買って用意すればどうしても
クラスメートと被るのだ
夫も私も自分たちの頃には
買って貰える子の方が少なく
袋物一つで貧富の差が分かった
ミシンは高価な品物だったが
買ったら一生モノだったから
親達は嫁入り道具に重くて丈夫で
修理の効く物を入れていた
今やミシンも使い捨て
長くは持たない機械ものを
わざわざ買うのは洋裁好きな人ばかり
だから娘たちから見れば
買ってもらった袋より
手を掛けて縫った一点物が
嬉しく感じるものなのだ
夫の要らなくなった作業着の
背中の部分に竹尺を当て
少し大きめに裁断する
ピンタックを表に入れ
捨てる予定だったハンカチで
小さな花とリボンを作れるだけ縫い付けた
もう少し早く言ってくれればと
そう考えながらも
手作りを欲しがる娘に
口元がついつい緩むのだ
明日の朝食はほんの少し
手を抜いても許されるだろう
最初のコメントを投稿しよう!