手作りの価値

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手作りの価値

娘が学校で使う袋物を 夜遅くに縫う事になった 一週間も前から分かって筈なのに 夕食を食べ終わってから言い出した 夫は娘を叱っていたけれど 娘の気持ちも何となくだが解る 村に毛が生えたような大きさの町では 袋物を売っている店は少なく 売られている種類も少ない 買って用意すればどうしても クラスメートと被るのだ 夫も私も自分たちの頃には 買って貰える子の方が少なく 袋物一つで貧富の差が分かった ミシンは高価な品物だったが 買ったら一生モノだったから 親達は嫁入り道具に重くて丈夫で 修理の効く物を入れていた 今やミシンも使い捨て 長くは持たない機械ものを わざわざ買うのは洋裁好きな人ばかり だから娘たちから見れば 買ってもらった袋より 手を掛けて縫った一点物が 嬉しく感じるものなのだ 夫の要らなくなった作業着の 背中の部分に竹尺を当て 少し大きめに裁断する ピンタックを表に入れ 捨てる予定だったハンカチで 小さな花とリボンを作れるだけ縫い付けた もう少し早く言ってくれればと そう考えながらも 手作りを欲しがる娘に 口元がついつい緩むのだ 明日の朝食はほんの少し 手を抜いても許されるだろう
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