たかが飯盛りされど飯盛り

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たかが飯盛りされど飯盛り

妻の飯を盛る順番に 明確なルールが有ることに気が付いた 先ずは夫の俺に盛り 次に娘 その次が息子 最後が自分 茶碗の大きさは 娘・妻・俺・息子の順で 息子の茶碗が一番大きく 重ねた際は一番下に来る 俺の茶碗は上から三番目 それでも妻は俺の茶碗から盛る 味噌汁の椀は全部同じ大きさだが 俺に一番最初を手渡す オムライスになると順序が逆になる 最初に自分の分を作り 次が息子 その次が娘 最後が夫の俺 そして全員が席について 食事が始まる時には 妻のオムライスは冷め始めている おかずの数や大きさは 育ち盛りや身体の大きさで 少しずつ変化はしていたが そんな物だと思い 気にしたことも無かった 特に褒められた覚えもなく 特に貶された覚えもない 淡々と家事と子育てを手豆にし 働きながら近所付き合いをこなし 何が楽しく生きているのかと 冷たい事を考えたこともある そんな妻の飯盛の順序に気が付き 家長である俺を常に 然りげ無く立たていてくれる事を知り 情けなさと恥ずかしさから 飯の味がしなかった 切っ掛けを作り 作る人が一番良い所を食べなさいと そう話して見れば 悪戯を見つけられた子供のように バツが悪そうにはにかんで 好きにしているだけだと 頬を染めて俯いた 最後に肩を抱いたのはいつだっだろうか いつの間にやら細く痩せた肩を見て 新婚当初から変わらぬ妻の態度と 流れた時間の長さとのギャップに驚き 忘れていた愛おしさを思い出す 取り返しの付かなくなる前に 気が付けたことに安堵し 毎朝の床のワイパー掛けは俺がすると 妻の邪魔にならない範囲の 家事を引き受けた
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