恋に溺れて

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恋に溺れて

3月も終わる頃、貴女は爪を艷やかに磨いた 貴女の爪が八重桜に染まったのは4月の初め 密やかで穏やかな貴女の中で何かが変わり始めた 5月に入り貴女の唇に鬼芥子が咲く 優しい乙女椿は塗り潰された 貴女の頬に紅紫陽花が(はた)かれた6月 更紗空木の肌は血塗られた 恋する女は色を差し換え 自分の価値を差し替える 差し替えられたその価値を 上げるべきやら下げるべきやら 愛する男の繊細を 踏みにじるのは貴女自身 差換えられたその色に 眉をしかめて別れを告げる 嗚呼、貴女 私の貴女よサヨウナラ もはや見る影もないその姿 恋に溺れて沈む人
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