鉄の雨

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鉄の雨

いつからだろう、私たちの星で雨が降るようになったのは。 私はぼんやりと天井を眺めていた。 ランタン以外の明かりはなく、部屋は薄暗い。 いつからだろう、必要最低限の物資しか手に入らなくなってしまったのは。 家の下に設置されたシェルターには、ベッドと小さなテーブル、洗面所しかなかった。情報も手に入らないから、家族が生きているかさえ分からなかった。 今日もまた、大雨が降り始める。 通りにいる人々が短い叫び声を上げて、てんでばらばらに逃げる。 通り雨から逃げる音が聞こえる。 雨が降った後は水たまりに命が咲き乱れ、何も残らない。今日も清掃車が国歌を歌いながら、片付けていった。 いつからだろう、世界が狂い始めたのは。 私はゆっくりと記憶をたどる。 天候が人の手によって管理できるようになって、これまで問題とされてきた異常気象もようやくおさまった。 夏の雷雨や冬の豪雪に怯える必要がなくなったのだ。 鉄の味がする雨が降り続ける。 地中に住む私はもぐらのようだ。 それでも、季節の変化がないと農作物は育たない。 人々が困らない程度に、天候が変化するようにシステム化した。 そうだ、ここから壊れていったんだ。 その後はロボットが強引に、様々な環境問題を解決していった。 森林はよみがえり、干からびた土地は元の姿を取り戻した。 生き物たちは自分たちの生まれ故郷に帰った。 地球本来のあるべき姿に戻ったのだ。 喜んでいいことのはずなのに、誰もが不気味がっていた。 ようやく気づいたんだ、すべてがロボット様の手のひらの上にあることに。 人工知能は人間よりもはるか先に生きていた。 機械が世界を牛耳り、人間たちは下僕となった。 機械が地球を管理し始めた。 それでも、人々は些細なことで争った。 格差だってなくなるわけじゃなかった。 外側がいくらよくなっても、内側はまるで変わらない。こんなの、どうしようもできないじゃないか。 ロボットは途方に暮れた。 気候を管理するロボットには、ハートがあった。 どんなことがあっても対応できるようにと、人間たちが与えたものだった。 様々な人間を見て傷つき、ハートはボロボロになっていたのだ。 ロボットを作った人間たちは、まるで気づかなかった。 何度も傷つけられたロボットは毎日雨が降るように設定し直した。 いつ降るか分からない、鉄の銃弾の雨だ。 時間を置いて降ることもあれば、1日中降り続けることもある。ロボットの気分次第で天候が変わる。 機械による逆襲が始まったのだ。 鉄の雨が初めて降った日、誰かがそう言っていた。 通り雨に当たった人は命を散らして、赤い花を咲かせる。 その後は清掃車が勝手にやってきて、何もなかったかのように死体を回収する。 鉄の雨に悲しむ暇もなく、怯えながら暮らしていた。 次に当たるのは、自分かもしれないから。 私も鉄の雨が怖くて、必要最低限の外出しかできていなかった。 窮屈で仕方がないけれど、何かができるわけじゃない。 祈り願い乞い縋ることしかできない。 だから、今日も私は雨に震えて眠る。 世界が終わるその日まで。
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