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 私は病室で、律の頭にげんこつを落とした。   「見限るどころか心配するに決まってるでしょ!!」  叩いたげんこつが痛かったわけでもないのに、涙が溢れた。全てを知ってほしいと言った律の心の叫びに気づけなかったことが今は――悔しい。  律が樹とは別人だと微塵も考えなかった。顔はソックリだし、一度、写真で見ただけで、しかも写真では坊主頭だったから仕方がないといってしまえばそれまでだが、後から思えば、髪の毛の質にしても、八重歯にしても、気づかなければならない箇所はいくつもあった。  ちなみに律の病気は命に関わるようなものではなかった。恥ずかしがってなかなか教えてもらえなかったが、無理やりに聞き出すと、尿道結石だという。念の為、一晩入院して、水分を多めに取るようというアドバイスと薬を貰って退院した。ただそれだけ。何てお騒がせな奴なんだろう。
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