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「うまくいったか?」
「はい、バッチリです。T氏はあなたとA子さんが付き合っていると思い込んだようです」
「よーし、よくやった。これでTは身を引くだろう。これからじっくり俺が、邪魔されずにA子を口説くことができるぞ」
そう言ってSはにやりとした。
「それでは、私はこれで……SNS界から出してもらったお礼は、たしかにしましたよ」
「ああ。ご苦労さん」
Sの浮かれた調子の返事を背に、SNSの精はスマホの中に戻っていった。
帰りにちらりとTの様子を見に行ってみると、Tはまだスマホをいじりながら、肩を落としていた。
「すみませんねえ……私ができる本当のお礼は、その人が望む誰かのニセのアカウントを作り、ほんのひととき、その人とニセトークを楽しませてあげる、というのものなんです。それをSに話したら、こんなことを言い出したんですよ。本当はこういうのはなしなんですけどね。以前も、有名人のニセアカウントの不倫トークを作って、人に見せたらえらいことになりましてね。大妖精に大目玉くらいましたよ。Sがあんまり強く言うので、ついまたやってしまいました…。
少し気の毒な気もしますが、ま、あなたも、私のように出口を求めてさ迷っているSNSの精を、うまく拾ってください。今度はほんとにね」
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