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レモンの木はあれから2度ほど鉢を替え、今は庭木となった。
我が家のシンボルツリーは毎年、秋になると実をつけた。
なぜが、毎年1つだけ。
「何がダメなのかなあ」収穫期が来る度に志乃がそう言う。
いいのかなあ。と、俺は思う。
この罪悪感も、たった1つの実くらいなら、許してくれないか、と思えた。だから毎年実るのは1つでいいと俺は思う。
たった一つのレモンの使い道は決まってる。
スライス3枚。残りは……そうだな、唐揚げにでもかけるか。
相変わらず、レモンは酸っぱい。
「あ、種……これも植える?」出てきた種を避けながら志乃が言った。
「いーや、一つで十分」
「ほらほら、色が変わった! 何でだろ、魔法みたいね」
娘の加奈がそう言う。
それに俺が「そうだな」って言う。
「バカね、魔法なんて。理科で習わなかったの?」
志乃が笑って言う。……そうか、あの実験は理科で習ったのだったか。と、記憶を辿る。
「美味しーい。さっぱりする」
加奈はバカねなんて言われても気にすることなく美味しそうに飲む。
そうか、レモンはさっぱりするから酸っぱいままでいいのか、なんて俺は思う。
そのタイミングで鳴ったインターホンに「はーい」と、加奈が立ち上がった。
「若いとすぐ反応出来ていいわね」と、志乃がレモンのスライスをソーサーに引き上げて言った。
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