たぶん、こっち

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 帰り道が同じ方向なのは、俺ともう一人の女性だけだった。    真木が、「じゃ」と手を上げ数人の女性たちと帰っていった。俺の隣には、一言二言交わした事があるくらいの山内志乃(しの)さん。    特に記憶には残らない程度の会話をしながら最寄り駅へと向かう。    「堀川さん」  「はい?」    急に名前を呼ばれ、彼女の方へ視線を向ける。   「私、堀川さんのこと、好きです」 「……」    は?……好き……とは。  いまいち意図が分からず、足を止めた。    告白だとしたら、唐突過ぎる。俺と彼女は今初めてまともに、話す……くらいの状況で、告白などするものだろうか。    目が合ったまま、気まずい思いをしているのは、どうやらこちらだけの様だ。彼女は臆することなく、続けた。 「もう、黙っていられないくらいになっちゃって」と。  困った、とでも言うように、眉を下げて、それでもはっきりと   「好きなんです」と、言った。    再び歩き始めた彼女に、俺も足を動かした。驚き過ぎて何も言えなかった。    彼女もそれ以上何も言わなかった。そのうえ、何もなかったかのような目をして、にっこりと笑った。   「あ、電車……間に合う! じゃあ、堀川さんお疲れ様でした」    業務の様にそう言って、急ぎ足でホームに入ってきた電車へと吸い込まれて言った。    呆気に取られ、「俺もその電車だ」と言えずにその場に立ち尽くした。  
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