たぶん、こっち

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 山内志乃とは会社で会うことはそんなになかった。見かける事も。接点はまるでない。そう思っていた。    だけど、山内さんを個人認識したことで、そんなこともないのだと知った。  時々は営業のフロアにやってきているし、時々はエレベーターですれ違う。時々は休憩時間に座った社食の席が近くだったり。    時々は……いや、これだけ見かけたら、もう時々ではない気がした。  地味……もとい、落ち着いた雰囲気だと思っていたけれど、普通に談笑してるんだな。  誰かと話す姿を見て、そう思った。はた、と目があって、軽い会釈だけする。彼女は少し笑顔を作ると、俺を気にするようでもなく、また誰かと話し出した。  山内さんに気づいた真木が 「あ、志乃ちゃん」小さく呟くと、彼女の元へと合流する。  ……真木は、また調子のいい事でも言っているのか、山内さんが口に手を当てて可笑しそうに笑う。彼女の手が真木の髪へと伸ばされ、真木の髪に触れると同時に、真木も彼女の髪に手を伸ばした。  ここから見てる自分が馬鹿らしくなって、顔を背けた。    彼女の笑い声が、耳に届く。苛立ちに似たような感情。いつも通り、真木にか、彼女の声にか。    あんな風に、声を出して笑うんだな。そう思った自分の感情はどこか他人の物のようで、何言ってんだ、と独りごちた。
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