たぶん、こっち

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「仕掛けるか、恋の罠を」    ……帰りたい。そのアピールに時計をチラリと見るパフォーマンスで伝えた。定時をまわっている。 「ああ、そうだな。こんな所で話すことじゃないな。行くか!」  ……行くのは、帰路ではなくいつもの飲み屋。   ──   「やっぱ、男に生まれたからにゃ、オトしたいだろ? こっちから色々仕掛けて……だな」 「何をそこまでしなきゃならないんだ」 「楽しいだろ、この男女の駆け引きってやつ」 「…………」 「……したことない?」 「ないな」 「カーッ! これだから、先天性のイケメンは! よし、じゃあ俺がそのノウハウを伝授してやるよ」 「その必要はない」 「余裕ぶってると、他の男にパッと持ってかれるぜぇ」 「彼女、俺の事が好きなんだ」 「…………はや。もうオトしたのか?」 「いや、あのビアガーデンの帰り道、彼女がそう言ったんだ」 「ああ、それでお前も気になりだしたのか。なんだ、案外単純なやつだな」 「いいや、お前と話してるのが気になっただけだ」    それに、苛立ったのは確かだった。   「ふうん、あれだ、お前。告白されたもんで、お前の中で山内さんはただの山内さんじゃなくて“俺の事を好きな山内さん”に変わったわけだ」    少々からかうような表情で真木が楽しげに言った。それはそうだろう。彼女が俺を好きなのだとしたら。
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