783人が本棚に入れています
本棚に追加
「真木さん、堀川さん、お疲れ様です」
帰社すると、いつも通り岡田さんがそう言う。各々挨拶を返して、俺は席についた。
マメな真木は席に着く前に岡田さんのとこで足を止めていた。
「あれ、珍しいですね。真木さんがチョコ買うの。甘いのダメじゃなかったですっけ?」
「うん。はい、あげる」
「え……いいんですか?」
「俺、それは好きなんだよね、覚えといて」
真木のセリフにこちらは吹き出しそうになったけど
「何だ、岡田さん用に買ったのか?」席についた真木に小声で尋ねる。半分呆れた様に。
「ま、ね。何でもない日のプレゼント。しかも安いやつ。だけど、一言足すと特別感が出るんだよね」
……なるほど、岡田さんを見ると、これもまたまんざらでもなさそうだ。
どうにかなるわけではなくとも、気分はいい。のか?
「……今度からコンビニとか、スーパーとかあのチョコ見かける度に、俺の事を思い出すだろ? 彼女の人生のほんのちょっとに俺が参加出来るってわけ」
それに何の意味が?と、言いたいところだが、「私が飲みたかったのでついでです」と、岡田さんは俺たちにコーヒーを汲んでくれた。
なるほどね。ほんの少し……か。
俺も、あのチョコを見る度に真木を思い出す事は、なんだか悔しいので黙っておくことにした。
最初のコメントを投稿しよう!