たぶん、こっち

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「真木さん、堀川さん、お疲れ様です」    帰社すると、いつも通り岡田さんがそう言う。各々挨拶を返して、俺は席についた。    マメな真木は席に着く前に岡田さんのとこで足を止めていた。   「あれ、珍しいですね。真木さんがチョコ買うの。甘いのダメじゃなかったですっけ?」   「うん。はい、あげる」 「え……いいんですか?」 「俺、それは好きなんだよね、覚えといて」    真木のセリフにこちらは吹き出しそうになったけど   「何だ、岡田さん用に買ったのか?」席についた真木に小声で尋ねる。半分呆れた様に。 「ま、ね。何でもない日のプレゼント。しかも安いやつ。だけど、一言足すと特別感が出るんだよね」    ……なるほど、岡田さんを見ると、これもまたまんざらでもなさそうだ。  どうにかなるわけではなくとも、気分はいい。のか?   「……今度からコンビニとか、スーパーとかあのチョコ見かける度に、俺の事を思い出すだろ? 彼女の人生のほんのちょっとに俺が参加出来るってわけ」    それに何の意味が?と、言いたいところだが、「私が飲みたかったのでついでです」と、岡田さんは俺たちにコーヒーを汲んでくれた。    なるほどね。ほんの少し……か。  俺も、あのチョコを見る度に真木を思い出す事は、なんだか悔しいので黙っておくことにした。
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